暗黒の時代に

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暗黒の時代に

 気付くと俺は黒肌の人の群れの中にいた。列を成して前進している。どういうことだ?  俺の肌も黒い…。手枷と首輪をはめられて…どこへ向かってる? “奴隷市場じゃよ”  脳内に神様の声が響いた。 “最初は混乱するじゃろうからと、アテンドに来てやったぞ” 「奴隷…?」 “おぬしが現代日本の回避を望んだから、西暦1796年のアフリカに転生したんじゃ”  !?  まさか…俺は奴隷として売られていく道中にいる? 「冗談じゃない! こんな転生望んでない!」 “おぬしの希望通りじゃが? その男の精神力は千人に一人の逸材。身体も屈強じゃぞ” 「なのに捕らわれてるじゃないか!」 “村に数人強い奴がいたって、世の権威者どもが持つ最先端の兵器に敵うわけなかろう”  連行される黒人同士は縄で括られ、体力を失っても引きずられたまま、この道のりで死に絶えていく。 「これは現実なのか…?」  石と珊瑚で造られた、独特な景観の街に辿り着くと、その一角で奴隷はステージに乗せられ次々と鞭で打たれていった。痛々しい悲鳴が観衆の合い間を縫って響く。 「なんでこんなこと…」 “奴隷商人のプレゼンじゃ。鞭で打たれても泣くことのない奴隷は高値が付く” 「それだけのためにこんな拷問を!? 人をなんだと思ってるんだ!」 “…人とは思っておらんのじゃ”  俺はどれほど強く打ちつけられても泣かなかった。本当に今世の俺は心身共に屈強だ。しかしその報酬は奴隷商人の懐に入るだけ…。  この朝、俺たちは早くから奴隷船の狭い貨物室に詰め込まれた。劣悪な環境で首輪をはめられたまま、幾日とも知れぬ渡航に耐えるしかない。 「村の子らは無事かな…」  隣でそう零したのは同じ村で育った仲間、イディ。  俺はここに連れてこられる間に転生したが、この人生初めからの記憶がある。村が襲撃された際の光景もフラッシュバックする。  イディは俺たちの弟妹を逃がし、自身が盾になって戦った。 「子どもたちはきっと逃げおおせたよ。…イディ、顔色が…」  彼は感染症に冒されていて、最期には力を振り絞り、俺に言葉をかけて逝った。  ──君は生きて、村に帰って… “この男も真面目でよく働き、生まれた時代が時代なら社会で活躍できたじゃろうな” 「無理だよ…イディ。知ってるだろ。永遠に、無理だ」  時代には逆らえない。人ひとりの力なんかちっぽけで、生まれ持った運命を受け入れるしかない…。  どの大陸に到着したのだか分からない。売られた先で朝から晩まで労働を強いられ、農作業しながら意識を失った。  ──その奴隷ももう死ぬな。新しいのを調達せねばな。  農場主らの高笑いが、遠くに響いていた。
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