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「これでお前さんも、道理の上では半月ほどは遊んでいても親方から文句は言われない勘定になるじゃないかい? そうだろ? だから、きっと、私が言うように、この近所では何処の家にも、この話を持っていって聞かせちゃあ駄目だよ? 」
「誠に有難うさんでございます。仰る通りに、少なくとも向こう半月は、こちらのご近所でお商売をさせて頂くことは慎ませていただきやす」
何です? そんな急な話で、手元に二十五円もあったのかと仰いますか?
そりゃ手前も、日に豆腐を何丁売ったの、隣町に新しい店が出来ただの、日々そんな倹しい暮らしではありましたがね、腐っても商売人だ。二十五円やそこらの銭が、その場で用立て出来るくらいの蓄えはありましたさね。
── おい嬶、二十五円、今直ぐ耳を揃えてここへ持って来い
ってんで、女房も大人しい女でございましたから、そりゃあ少しは躊躇ったような仕草も見せたかも知れませんが、黙って手前の言う通り、額面通りに耳を揃えて奥の戸棚から出して参りました。
── そりゃあアンタ、すっかり丸っと騙されたと言う事じゃないかい?
なんて、気遣いもなく面と向かってはっきり言う人もおりますがね、そんな騙されたなんて人聞きの悪い事をお言いじゃございませんですよ。
第一、手前の方では騙されたなんて未だに、爪の先ほども思ってはおりませんし、全て了解したうえで二十五円を支払ったんでございますから。
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