黒く塗りつぶせ

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「お先真っ暗」、とか「黒星」、なんて言葉を聞きますと、やはり黒といえばネガティブなイメージをもってしまいますですねえ。  「おれの目が黒いうちは」、とか「黒々とした髪」、といえばややポジティブな気持ちになりますが、目の黒いうちなんてのは白内障になる前に、という感じでしょうし、黒髪も「ともに白髪が生えるまで」、なんておめでたい表現にはかき消される感じはしますですね。  私のようにニート&子供部屋おじさん歴三十有余年となりますと、まさにお先真っ暗……「八十/五十問題」のど真ん中でございますし、高校中退つまり中卒という最低学歴から、黒星を着実に重ねてまいりました。  目の黒いうちどころか、強度の近視に最近では老眼もくわわり、わけわかんないことになっておりますし、白髪どころかハゲていて髪がないうえ、体重一○四キロの巨漢ともなればともに年月をすごしてくれる妻もいないと。  だから、なんで自分をナチュラルにディスらねばならないんですか。  これだから生まれ持った下男根性は、染みついて困ったものでございますよ。  そういえば、「黒歴史」なんてワードもありますね。具体的には私の人生黒歴史の継続でございますからして。  「黒魔術」なんかも魔女狩りのときに使用したとかしなかったとか……とにかく黒というワードには負の要素がぎっしりつまっているようでございますね。  私見なのですが、明治時代になるまで、日本って電気が通っていなかったじゃないですか。だから夜なんかは真っ暗で、黒が支配する世界だったわけですよ。  黒=夜は、昼間と違って闇ですから何も見えないですよね。  人は目に見えないものを恐れます。幽霊があらわれるのは決まって黒に支配された深夜ですし、考えないでいいことを考えるのも、いつも夜ですね。  黒も他の色を介在させませんので、何もみえないという点では闇と同じ……そう、人が黒や闇をおそれる原点ってのは、ここにあるような気がいたしますですよ。  お葬式とか人を悼む時に着る喪服も、黒ければ黒いほど哀悼の意を表しているといわれているらしいですし、邪悪を払う時には黒を用いるのも常套手段でございますね。  邪悪といえば、プロ野球で悪名高き読○巨○軍なんかも黒がチームカラーでございますですよ。  潤沢な資金にものを言わせて、FAなんかでフリーになった選手を札束でひっぱたいて獲得する手段は、世間の悪評をものともしないことで知られておりますですね。  そんなベテランの四番打者とかエースを金でかっさらっていた報いで、生え抜きの若手選手がまったく試合にでることができず、ここ数年低迷しているのは、ざまあみろとしかいえないですよね。  余談が過ぎました。  私が着ているのは、いつも黒の洋服です。  黒は膨張色の反対の収縮色なので、いくらかスマートに見えるのと、何も考えず黒を買っておけば間違いないので、そうしておりますですよ。  百キロ超の私にとってはいまさら感がございますが、まあ気は心といったところでしょうかね。汚れも目立ちにくいので何日も継続して着用できますし……。  さあ、そろそろ陽が沈んできて、私の時間がやってまいりましたですよ。  夜の到来です。  どうも昼間ってのは、外に出て働いているサラリーマンやら、学校に行っている学生たちが活動しているので、私の劣等感を刺激して苦手でございますねえ。  夜ならば下のうるさい両親も就寝いたしますし、昼間活動している人たちが家に帰って静かになりますですから、「サボっているのは私だけではない」という安堵感につつまれますですよ。  私は、夜が大好きでございまして。  文明人である我々は電気というものを発明して、暗闇の支配から脱することができたのでございます。  そこらじゅうには住宅が建ち並び、LEDの街路灯がいたるところの道を照らしております。防犯カメラも網の目のように設置され、犯罪者どころか、幽霊が入り込む隙間もありませんですよ。  われわれの夜に対する恐怖は、それこそ黒く塗りつぶされてしまったのです。  まあ、真夜中に無防備に出歩いて無事なのは日本くらいだという話もあるようですけれども……。  魑魅魍魎や百鬼夜行が跋扈する黒い闇は、自然界から追放されまして、邪悪な人間の心に入り込んでしまったのでしょうね。  今は昼夜関係なく残忍な犯罪や、戦争が世界中で勃発し、油断できる暇はありません。  人間こそ、本能のぶっ壊れた怪物なのでございましょうね……。  自然に対する畏れ、闇に覚える恐怖、これらを黒く塗りつぶし……科学文明が産んだ傲岸不遜の人間。  こんな連中とうまくやっていけるはずがないので、私は三十有余年、自宅の二階にある子ども部屋にひきこもっておりますのですよ!  そもそも野生動物には、私のような肥満は存在しないですからね。  野生動物は、お腹がすいたときにしか食べません。人間のような無闇矢鱈と家畜を殺生したりはしないのでございますですよ。  私は本能を黒く塗りつぶした異形の動物……こんな深夜からでも満腹になるまで食べ物を胃に放り込む所存でございます。  さあて、バカデカい冷凍のピザ食べよーっと。                   終
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