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この部屋の天井には大きな丸窓が一つある。
その窓には大抵いつもどんよりと黒い空が映っていて、ときどき雨粒が窓を叩き、濡らしていく。
今日は頭上でたびたび稲妻が光り、遅れて雷鳴が響く。
窓に叩きつける雨は大粒で雲すら隠す勢いだ。
こんな雨が降る時は、決まって彼が――友だちが訪ねてくる。
「……こんにちは、ネロ」
「こんにちは。いらっしゃい」
ずぶ濡れの彼に手招きをすれば、彼は足を引きずるようにネロのそばまでやってくる。
そしてネロの隣にそっと腰を下ろすと、寒そうに腕を抱えた。
「寒そうだね。でもごめんね」
この部屋には暖炉がない。
彼が濡れてやってくるたびに、ネロはこんなふうに彼に謝っている。
「……いい。ネロがいてくれれば、それで……」
けれど、そのたびに彼はか細い声でそう言ってくれるのだ。
こんなにも震えているのに、ネロを気遣ってくれるのだ。
「ありがとうね」
「うん……今日も、聞いてくれる?」
「もちろんだよ」
そんな優しい彼に対してネロにできることは、ただ彼の話を聞くだけ。
しかし彼は何よりもそれを望んでいるという。
話を聞いてくれるたびに気が楽になるのだと言う。
「それで、今日はどうしたの?」
「……苦しいんだ。うまく息ができなくて、言いたいことはたくさんあるのに、声が出せないんだ」
うながすように聞けば、彼は抑揚のない声でぼそぼそと話し始めた。
「……ぼくの兄弟の話は、したよね。上の兄は意地悪で、下の兄は何年も前に死んじゃった」
頷けば、彼は頷き返しぽつぽつと続きをこぼしていく。
「……上の兄がね、ぼくの大切なものを奪って、壊していくんだ」
前にも聞いたような話だけど、たぶん前とは別の話だろう。
彼の話す上の兄の話はいつも同じような話だったから、今回もきっとそうだ。
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