婚姻届け

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 役所に勤めているのだが、時々、時間外窓口を利用して、夜中に婚姻届けを出しに来る人が駆る。  一月一日の午前一時や二月二日の午前二時のように、ゾロ目を記念として記録に残したいからとか、出会った日の出会った時間に結婚したいとか、理由は様々だ。  そして、今窓口に来たカップルも、おそらくそういった理由だろう。  四月四日の午前三時過ぎ。四時になるまでもう少し。  あえて何も言わず、時間が過ぎるのを待つ。午前四時まであと十分、五分、三分…。  時間が変わると同時に二人が動いた。  差し出された婚姻届けに目を通し、受理する。すると、今まで真剣だった二人の表情がぱっと笑顔になった。 「よかった。受け取ってもらえた」 「これで僕達、天国で幸せになれるね」  はしゃぐ二人の姿がすぅっと目の前から消え、私は、恐怖に固まったままその場に立ち尽くした。  周りに結婚を反対され、若いカップルが心中した…という、今時流行らない内容のネット記事を目にしたの数日後のことだ。  死ぬくらいなら、どこへだって逃げればいいと思ったけれど、あれがあの二人の選んだ道なのだから仕方がない。  こちらとしては、本人達の気がすむよう、届けを受理してやれてよかったと思うべきなんだろう。 婚姻届け…完
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