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薄暗い雲が空に広がっている。
下町の暗く細い道で、リコは頭をすっぽりフードで覆って座り込んでいた。立てた膝に、ぽたりと一滴の水が落ちて染み込んだ。
雨はまだ降っていないが、心なしか湿った匂いが漂っている。
リコが顔を袖で擦った。フードの中から長い黒髪が一束、はらりと落ちた。
「そんなに擦ると肌が赤くなるよ」
高くもなく低くもない声が響く。リコがあまり聞いたことのない不思議な響きだ。大人か子どもか、男か女か。声から想像することはできない。
リコはゆっくりと顔を上げた。リコの目の前には小さな黒い猫が一匹、尻尾を揺らしながら座っていた。
「やあ」
「……こんにちは」
猫が人間の言葉を話している。リコは困惑したものの、礼儀正しく挨拶を返した。
「もっと驚いてくれない？」
猫は不服そうに尻尾をパタンパタンと地面に叩きつけた。
「まあいいや、泣いている女の子をさらに不快にさせるような男は紳士じゃない」
飄々とした態度に、リコは少しだけ口角を上げた。この愉快な状況が段々と楽しくなっていた。
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