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「猫さんは男の子なのね。名前は?」
猫はまた尻尾を地面に叩きつけた。
「もう立派な大人だよ。子どもじゃない。それに、猫に名前なんかない。好きに呼んでくれ」
リコは頷いて思考を巡らせた。猫さんと呼び続けるのはつまらない。
名前を付けるという行為はリコにとっては初めてで、付け方も分からなかった。
「クロ」
猫の毛の色を見て、リコは安直に名付けた。
「クロか、いい名だ」
クロは満足そうに背筋を伸ばした。
「それで、君の名前は?」
もう名乗ったつもりになっていたリコは、慌てて名前を口にした。
「リコ」
「そうか、君もいい名だ。よろしく、リコ」
リコは、クロが差し出してきた前足を握った。ふわふわした毛とぷにぷにした肉球は、触り心地が良かった。
「触りすぎだよ」
少し顔をしかめたクロに振り払われて、リコは肩をすくめた。リコはもう、猫が話している状況に何も疑問を持たなくなっていた。
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