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「生まれてすぐに隣の国に引っ越して、去年まで住んでいたの」
リコが呟いた。
座っているのに疲れて、リコの足元に丸まっていたクロは片目だけを開けた。
「皆が金色か茶色の髪で、黒髪の人なんて一人もいない。不吉な色だって馬鹿にされた」
リコの感情が滝のように瞳から流れ出して行く。その瞳も黒かった。
「生まれた国に戻ってきたら、黒髪でも大丈夫だと思ってたのに」
リコは顔を膝に埋めた。声が服に吸い込まれてモゴモゴとして、聞き取りづらい。
「女の子たちはみんな、隣の国に憧れて黒い髪を脱色していたの。今どき黒髪のままなんてダサいって、金髪や茶髪じゃないなんて芋くさいって言われた」
クロは丸まったまま尻尾をパタンパタンと動かした。
「どうして黒い髪で生まれちゃったんだろう」
またしばらく沈黙が流れた。細い線のような雨が降り注ぎ始めていた。
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