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働き疲れた午後も推しが尊い
犯した過ちは消せないから、これからを正しく生きるんだ。そう、推しが言っていたから。
「──でも私、いつになったら変われるのかな」
ハニーカモミールラテの甘い香りを、溜め息として吐き出しながら。隅っこのテーブルで注文の品を待つアフター。月末の、なんでもない日。
キラキラだなんて別世界な片田舎のチェーン店は、それでも無言の間が気にならない程度に騒がしい。カップを揺らして、ゆらゆら、カチャカチャ、濁った水面が揺れる。
「センセーはいつも抱え込みすぎなんだって。どうせまた色々押し付けられたんでしょ?」
そして溜め息のおかわりを遮るみたいに、向かい側から声がする。全体的に黒なのに紫のメッシュが目を引く短めの髪を弄りながら、キツめな印象の目を、柔らかに。
あぁ、これは非行少女と担任の課外授業、とかじゃなくて。
こう見えて地元産業の現場責任者さんと、テスト対策とか頼み込まれた頃の名残をからかわれる私の。和やかな、気だるげな、社会の荒波の反省会だった。
「かもだけど。それだって結局おんなじだなー、私……って」
今日は、私がグチグチするターン。なにせ話題は数時間前の事だ。
元々雑務が立て込んでいたのに「忘れそうだから後で連絡して」だなんて、先輩に些細な面倒を頼まれて、それを私が忘れていて。
「ほんっと、こういうの、自分で嫌になる」
また溢れそうになった溜め息を、ラテごと喉に流し込む。
「今更だけど、食べる前にハニーラテはちょーっと重くない?」
そんな私を、色んな意味で真正面から咎める声。
「カモミールこれしか無かったんだもん」
だけど私の目当ては、そう。
そしてテーブルの向かいで、どこか納得するような声が落ちた。
「なるほどねぇ……センセーまだ好きなんだ、アレ」
髪の紫の部分を弄びながら、染み染みとした声。ラテのカップを置いた私は、ただ、黙って頷いた。
好きな人の、好きなモノ。
その単純接触効果に、二次元も三次元もないのだと、私は思っている。
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