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青空
忘れよう。この十日間を初めからやり直そう。そう。あのコーヒーショップから。注文したコーヒーのカップを持って。またあの席が空いてる。腰掛けてコーヒーをひと口。
「相席いいですか? 芹澤麻琴さん」
「えっ? さっきの大学病院の……」
「十日前にも僕はそう言いましたよ」
「十日前?」
「顔色だったら、あんたの方がよっぽど悪いわよって、あなたに言われました」
「えっ?」
「あの日は当直明けで、おまけに急患が入って」
「睡眠不足の夜遊び男?」
「ひどいなぁ。まぁ、そう見えても仕方ないですね」
これが彼、惣領直斗と私のナレソメ。
そして一年後……。
綺麗なブルーの絵の具で塗りつぶした様な青空の下。彼と私は式を挙げた。数人の家族と友人の祝福の中で。
「まさか麻琴が、お医者様と結婚するなんて」
人生、何が起こるか分からないものだ。
「麻琴……。幸せになるのよ」母の声が聞こえた気がした。
もう、ひとりぼっちじゃないから、直斗さんと新しい家族を作っていくから心配しないでね。
あの日、許せないくらい綺麗だった青空。
きょうの青空は、生涯、忘れられない思い出に変っていくのだろう。
完
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