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告別式場を追い出されるように後にする私を、清鷹の女性秘書、林田さんが車に乗せるとマンションまで送ってくれた。帰る場所はここでいいようだ…
つわりが酷くて入院した私。退院する時に、清鷹がこの彼のマンションに住まわせてくれたのだ。
だからまだたったの3ヶ月ほどしかここには住んでいないけど。
妊娠8ヶ月…お腹の子は男の子。
私がしっかりしなくっちゃ。彼の生まれ変わり…彼の代わりになんて誰もなれないけれど…それでも彼の血を引く子を大切に育てる…今日から命ある限り…いくつになったって大切に大切に…強く生きなくちゃ。
「荷物をまとめて下さい。新しいお部屋は用意されています」
マンションで車が止まると同時に、林田さんがミラー越しに言う。
「荷物をまとめる…?」
「はい。聞こえていたなら、急いでもらえますか?私もまだまだ忙しいんで」
帰って来たのではない?
キツい調子の林田さんに聞き返すことさえ許されず、黙って荷物をまとめるなんてことは、強くあると決意したばかりの私がすることではない。しっかりしなさい、紗耶。
「新しいお部屋とは、どういうことか説明してもらえますか?」
「ここを出たあなたが生活できる部屋を社長が用意されているので、私はそこへあなたを送り届けるまでが仕事です」
これまで一緒に仕事をしていた副社長の清鷹が亡くなった直後に、なんて事務的に話す人なんだ…と悲しくて悔しくて涙が溢れる。
まだここに彼がいそうでしょ?と言いたくても震えるだけの唇…そして強く握りしめた手が震えた。
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