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「はぁ…あまりにもあなたが何も知らな過ぎて可哀想な気がしてきたから言うけど…副社長は何人かの女と付き合っていたわよ」
運転席から顔だけ後ろに向けた林田さんは
「その中のあなたがしたたかな女で、うまい具合に妊娠したってところでしょ?」
と私に告げると
「副社長の物まで持って出ないように見ておけと言われてるから、一緒に部屋へ行きます」
そう言って先に車を降りた。
何…なんて言った…?何人かの女と付き合っていた?
そのあとは自分で荷物をまとめたのか、林田さんがまとめたのかよく覚えていない。
ぼやけた視界がはっきりとしたのは
「このアパートです」
と2階建ての小さなアパートの前で車が止まった時だった。
「今、引っ越し作業をしているんですね。あの隣の部屋で、これが鍵です」
何のチャームも付いていない、ちゃちな鍵が私の手に握らされる。
「最低限の家電製品や寝具などは揃っています。家賃も3ヶ月分はすでに社長が納めておられます。一応田川の物件ですが、社長はそのあたりきっちりとされているので。では産婦人科の健診にはきちんと行って下さい。病院は近いですから」
彼女は車から荷物を下ろすと、すぐに走り去ってしまった。
ポツリ…そんな音に身体中が包みこまれた孤独感。亡くなった清鷹さえも私の心の支えになってくれないというの?
明らかに築年数が私の年齢以上のボロアパートの前で、世界の全てから放り出されたようだ。
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