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「うぅ……」
何が起きたのか理解できぬまま、彼は目を覚ます。
するとそこには病院の天井、ではなく雲なき青い空が広がっていた。
「何が……起きたんだ?」
覚えているのは喫茶店の片付けをしていたこと。
そこからは眩しい光が迫ってきたと思ったら、目の前が真っ暗になってしまった。
そして、今である。
「ここは……」
周りに視線を回せば、見たことのない草木の景色が広がっていた。
おまけに、振り返れば城塞都市のような街の姿が見えた。
「どこだ……?」
そこは今までいた都会とはかけ離れた、まるでファンタジーの世界。
もうおわかりだろうが、彼は“転生“をしてしまったのだ。
それも異なる世界に……。
『こちらの席へどうぞ』
彼は多くの人たちに助けられ、“異世界“という未開の地で暮らすことを受け入れることになる。
初めは、元の世界に戻る方法を必死に探した。
あらゆる文献に目を通し、街行く人に聞いてみたのだが、誰も相手にはしてくれなかった。
『喫茶ラルム』
調査を始めてから数日経つと、彼は諦める。
まずはこの世界で暮らせなければならないと考えを変えて、冒険者になり様々な依頼を受けていった。
残念ながら、彼の能力は低く冒険者としては素材採取ほどはこなせたが、魔物との戦いというのはかなり厳しい状態だった。
それでは稼ぐことができないと考えた彼は、元いた世界での能力、“料理“に目をつけて、様々な行商人たちとの交渉・素材採取を行うことで“喫茶店“を開くことに成功した。
立地はかなり良好で、最初から物珍しさもあって多くの人々が足を運んだ。
開店から半年でかなりの収入を得ることができ、初めは古い建物での経営だったが、開店から2年後には立派な店として落ち着いた。
こうしてできたのが喫茶ラルムなのだ――。
この世界における大国。
リューシュタイン国の城下町に建てられたお店。
仮に、あなたが“喫茶店“というものを知らない異世界の住人だとしましょう。
そんなあなたに『ご注文はお決まりですか??』と店主が声をかけます。
全く聞いたことがない未知の単語が並んだメニューを前にどうすれば良いのかわからないあなた。
ここで、『店主のおすすめをお願い』と言いたくなりませんか?
『おすすめ……で、よろしいですか?』
『はい』
『その……店主としてはおすすめなのですが、当店で最も不人気なメニューになります』
不思議かつ予想外の返答に、あなたはきっと戸惑うことになるでしょう。
“おすすめ“にして、注文されない不人気メニューが存在するおかしな喫茶店――。
これは、そんな異世界の喫茶店で起こる、ちょっとした物語なのだ――。
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