異世界に喫茶店

2/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「うぅ……」  何が起きたのか理解できぬまま、彼は目を覚ます。  するとそこには病院の天井、ではなく雲なき青い空が広がっていた。 「何が……起きたんだ?」  覚えているのは喫茶店の片付けをしていたこと。  そこからは眩しい光が迫ってきたと思ったら、目の前が真っ暗になってしまった。  そして、今である。 「ここは……」  周りに視線を回せば、見たことのない草木の景色が広がっていた。  おまけに、振り返れば城塞都市のような街の姿が見えた。 「どこだ……?」  そこは今までいた都会とはかけ離れた、まるでファンタジーの世界。  もうおわかりだろうが、彼は“転生“をしてしまったのだ。  それも異なる世界に……。 『こちらの席へどうぞ』  彼は多くの人たちに助けられ、“異世界“という未開の地で暮らすことを受け入れることになる。  初めは、元の世界に戻る方法を必死に探した。  あらゆる文献に目を通し、街行く人に聞いてみたのだが、誰も相手にはしてくれなかった。 『喫茶ラルム』  調査を始めてから数日経つと、彼は諦める。  まずはこの世界で暮らせなければならないと考えを変えて、冒険者になり様々な依頼を受けていった。  残念ながら、彼の能力は低く冒険者としては素材採取ほどはこなせたが、魔物との戦いというのはかなり厳しい状態だった。  それでは稼ぐことができないと考えた彼は、元いた世界での能力、“料理“に目をつけて、様々な行商人たちとの交渉・素材採取を行うことで“喫茶店“を開くことに成功した。   立地はかなり良好で、最初から物珍しさもあって多くの人々が足を運んだ。  開店から半年でかなりの収入を得ることができ、初めは古い建物での経営だったが、開店から2年後には立派な店として落ち着いた。  こうしてできたのが喫茶ラルムなのだ――。  この世界における大国。  リューシュタイン国の城下町に建てられたお店。  仮に、あなたが“喫茶店“というものを知らない異世界の住人だとしましょう。  そんなあなたに『ご注文はお決まりですか??』と店主が声をかけます。  全く聞いたことがない未知の単語が並んだメニューを前にどうすれば良いのかわからないあなた。 ここで、『店主のおすすめをお願い』と言いたくなりませんか? 『おすすめ……で、よろしいですか?』 『はい』 『その……店主としてはおすすめなのですが、当店で最も不人気なメニューになります』  不思議かつ予想外の返答に、あなたはきっと戸惑うことになるでしょう。  “おすすめ“にして、注文されない不人気メニューが存在するおかしな喫茶店――。  これは、そんな異世界の喫茶店で起こる、ちょっとした物語なのだ――。  
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!