収穫祭(4)

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収穫祭(4)

 ソフィアとの会話で、気持ちが少し固まったトーコは、とりあえず王宮に一泊してみることにした。  着替えに使っていた部屋に戻る途中、トーコは偶然通りかかった侍女に、オスカーの居場所を聞いた。オスカーは、王宮の裏側のリビングルームで小休憩しているということを知り、トーコは急いでリビングルームに向かった。  リビングルームの前まで来て、トーコがノックをしようとした時、ちょうどオスカーが部屋から出てきた。  トーコはオスカーに、もしかしたら王宮に一泊以上するかもしれないという意志を伝えた。そして、「疲れて、昼近くまで寝てしまうかもしれない日もあるかもしれないので、もし朝食を食べられない時があったら、ごめんなさい……」ということも話した。  オスカーは一瞬驚いたようだったが、「急遽(きゅうきょ)、朝食を食べたくなったら、また教えてくださいね」と、トーコに優しく言った。  トーコは、オスカーにしっかりとお礼を伝えると、ゆっくりと後宮の部屋に戻った。  日の入りの少し前に、侍女がトーコの部屋まで夕食を運んできてくれたようだ。  小麦の(かゆ)と、鶏肉と野菜が入ったスープをササッと食べた後、トーコは日の入り直後には就寝したのだった。  収穫祭の二日目。トーコは随分(ずいぶん)と疲れていたせいか、彼女の予想通り、昼近くまで寝たのだった。  部屋を出て、左側に行くと、トーコは洗面台で顔を洗った。そして、また部屋に戻ると、寝巻きを脱いで、普段使用しているチュニカを着た。  トーコが大欠伸(おおあくび)をして、水を飲もうとした時、再びドアをノックして、ソフィアが訪ねて来たのだ。 「トーコちゃん。もし良かったら、一緒に昼食を食べない?」 「はいっ、ありがとうございます!」  トーコはソフィアと共に後宮の向こう側、町に近い区画のダイニングルームに向かった。  ダイニングルームに着いた後、テーブルの上には、パンだけでなく、野菜のマリネとチーズ入りのオムレツ、それからフルーツの盛り合わせが用意されてあった。  トーコとソフィアは、まったりと外の景色を見ながら、ゆっくりと食べたのだった。  二日目は、トーコは外出せずに、王宮内で余暇を過ごしていた。  彼女は、とても広い敷地内の庭を(めぐ)るように、日中は自分のペースで散歩をしていたようだ。  そして、ふと気が付いたら、トーコは王宮に二泊していた。  収穫祭の三日目。トーコは、なかなかオズワルドにも会えないようだった……。  しかし、ソフィアが気にかけてくれて、その日も一緒に昼食を食べることになったので、トーコは多少気が(まぎ)れた。    ……と、昼食の後、トーコにとって、心臓が止まりそうな程の悪い出来事が起きたのだ。  ダイニングルームの前で、ソフィアと別れてから、トーコは自分の部屋に向かって歩いていた。すると、後宮の区画に入ってすぐ、廊下(ろうか)の壁に背中を付け、両腕を組んで、トーコを(にら)んでいる人物が居た。  それは、グレースだった。  ジュリアンくらいクリクリな小麦色の長い癖毛で、(みどり)色の()をしているが、美人が台無しになる程、眉間(みけん)(しわ)がとんでもなく濃くなっていた。 「ちょっと、アナタッ!! オスカー兄さんから聞いたんだけど、一体全体っ、どぉーやってオズワルドに取り入ったのよっ!?」  オズワルドが王宮で働いていた頃、『オズワルド派』と『ジュリアン派』が居たら、グレースは確実に前者だったのだろう。  思わずトーコは、あからさまにビクッとした後、すぐに体全体が硬直してしまった。  自分の部屋に行くためには、グレースを避けることもできない。それに、とてつもない圧力のせいで、上手に誤魔化(ごまか)すこともできない……。  その時、救世主が現れたのだった。  突然どこからか、オズワルドがトーコの真横に来たのだ。 「、声をかけたってコトです」  グレースに向かってボソリと言った後、オズワルドは横からトーコの肩に手を回して、前進した。トーコもオズワルドに(うなが)されて、早歩きで前に行った。 「ええぇぇぇ!? 何それぇ〜っ!?」  グレースは上擦(うわず)った声を出したが、オズワルドは完全に無視をした。  トーコはオズワルドに気を取られていたので、グレースの声には気付かなかったようだった。  トーコの部屋のある方向に進み、廊下の角を曲がると、オズワルドはトーコの方から手を離し、()め息をついた。 「危ない目に()ったな。会えて良かった……」 「本当にありがとうねっ、オズワルドさんっ! 今は休憩時間なの?」 「そんな感じだ。時間が読めるようになったから、自由に動ける時もつくれた」 「そっか……」  廊下の角を通り過ぎると、二人はあっという間にトーコの部屋の前に着いた。  トーコが部屋のドアを開けようとした時、オズワルドは「俺も入っていいか?」と聞いた。 「少し休ませてくれると助かる。人が多過ぎるとこには不慣れだからか、いつもより疲れていてな……」 「うん、いいよー」
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