銀髪の青年(4)

1/1
前へ
/41ページ
次へ

銀髪の青年(4)

 日の入り前、オレンジ色の光が、森の木々の間から()れている。  トーコは、オズワルドの斜め後ろを歩いていた。  二人が歩いている途中、トーコは悶々(もんもん)としている気持ちが限界に達した時、少し早口で話し始めた。 「オズワルドさん、あのっ……。立ち入ったお話なんですが、()()()()()()()()()()()って――」  トーコは小さく深呼吸をして、言葉を続ける。 「小さい頃、私も飲んでいた時期があって……。何度も嫌なことを思い出して、ずっと鬱々(うつうつ)したり、不眠が続いたりするのって、ものすごく辛いことであるのは、よく知っています。  何か……、悩んでいらっしゃることが、あるんですか……?」  トーコの問いを聞いた後、オズワルドは前を向いたまま、立ち止まった。 「あっ!! ……気分を悪くしたなら、本当にごめんなさいっ!」  小さく溜息をついた後、オズワルドはゆっくりと話し始めた。 「……『ニレ村』って、知ってるか?」 「はい、もちろんです。私が生まれる前に、キンキラ銀山に関する紛争(ふんそう)で、村ごと巻き込まれて、ものすごい人数の方々が亡くなったと、父から聞きました」 「俺の故郷だったんだ、その村。  母親の親戚(しんせき)んとこに遊びに行っていたからか、なぜか()()()()、生き延びちまったけど、な……」  オズワルドの重々しい告白を聞いて、トーコの両目は(うる)んでいた。  そして、その時に初めて、()()()()()()()()()が自分にはあるのだと、彼女は気が付いたのだ。 「わっ、私……、いつかオズワルドさんの『特別』な存在になれたらいいなって、ずっと思っていたんですっ!」  涙を流しながら、トーコはオズワルドに近寄り、背中をじっと見つめた。 「……オズワルドさんのことが、大好きなんですっ!  さ……支えるなんて、立派なことは難しいかも、しれないけど……。だけど、せめて……、何か力になれることがあったら、遠慮無く、私にやらせてくださいっ!」  少しだけ(ふる)えた声で、トーコはオズワルドに、ありったけの想いを伝えた。 「こんな……弱くて、みっともねー奴でも、いーのか……?」 「誰だって、弱いところはありますっ。  それに、『みっともない』なんて、言わないでくださいっ! オズワルドさんはすごく格好良くて、とても素敵な方ですっ!!」  しばらくは前を見たままだったオズワルドだったが、小さくフウ……と()め息をついた後、後ろに居るトーコの方に体ごと振り返った。 「……なら、婚約者にでも、なってみる、か……?」  (つたな)い言葉で、自分の気持ちを伝えたオズワルドは、照れ臭そうに、優しく微笑んだ。 「えっ……!? ほ、本当に……、いいんですか……?」 「二言はねーよ」  オズワルドはトーコに近寄ると、右手をゆっくり差し出した。 「手……、(つな)ぐか?」 「えっ……あ、はい……」  突然の出来事にトーコは驚いたが、恥ずかしそうに、何とかオズワルドの手を握った。  徐々に日が落ちていき、森の中の山道に注がれる陽の光も、少しずつ弱まってきた。  トーコとオズワルドの背中に向かって、時々やわらかなオレンジ色の光が照らしている。  トーコの家の前に着くと、オズワルドは手を離した後、トーコの頭をポンポンと二回やさしく(たた)いた。 「今からは、敬語は使わなくていーから、な?」 「あ……、はい。……じゃなくて、うんっ!」  トーコの返事を聞き終えると、オズワルドは「またな」と言って、詰所へ歩き始めた。 (てかっ! こ……『婚約者』って、一体、何をすれば、いーのかなぁ……??)  しばらく玄関の前で突っ立ったまま、トーコは頭の中の整理をしていたのだった。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加