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収穫祭(3)
後宮の部屋に戻ったトーコは、全く動く気配が無く、ベッドに腰かけていた。
(あ〜……、王宮の中では毎度なかなか落ち着かないせいか、まだ、あまりお腹も空いてないみたい。うーん、どーしようかな……)
しばらく窓の外をボケーと見ながら、物思いにふけている様子だ。
その時、部屋の入口からノックする音がして、トーコはピクッとして驚いた。
(突然だな、誰だろう? オスカー様かなぁ……?)
トーコは「はい……」と弱々しい声を出し、恐る恐る部屋の入口のドアを開けた。
すると、そこにはソフィアが立っていたので、トーコは再び驚いたのだった。
「突然でゴメンね。部屋に入ってもいい?」
「……あっ、はいっ」
部屋に入ったソフィアは、化粧台の前のイスに座ると、台の上に顔と両腕を付けながら、大きく溜め息をついた。
「ああ〜、すっごく疲れちゃった! 婚姻の儀の打ち合わせや準備だけじゃなくて、ミア様の話し相手にもなってたから、最近、超々忙しいのっ」
「公私とも激務なんですね……。本当にお疲れ様です。
もし良かったら、お水どうですか? ……あっ、ダメだ……ほんのちょっとだけ、だった」
「大丈夫、ありがとっ。ミア様はカワイイし、普段は町の食堂で働き詰めだから、体力はある方なんだけど、こんなに賑やか過ぎたり、忙し過ぎたりなのは、ちょっとキツイなぁー。な〜んか、いつもよりお腹空いちゃった!」
そう言った後、ソフィアはベッドの近くに立っていたトーコに体を向けて、言葉を続けた。
「トーコちゃん、お昼もう食べた? これからなら、一緒に町の屋台を見に行かない?」
「いいですよ、分かりました」
理由はハッキリと分からないが、ソフィアと話していたら徐々に平常心なってきて、お腹も空いてきたので、トーコは快くソフィアの誘いを受けたのだった。
トーコとソフィアは部屋を出ると、乗馬場近くの中庭に通り、王宮の裏側から町の方に出た。
ヒト同士が肩がぶつかりそうなくらい、大勢の人々が行き交っている。
人々の会話の声だけではなく、ソーセージや魚を焼いている音も聞こえてくる。広場からは、竪琴や横笛で奏でる音楽が聞こえてきた。
本当に、ものすごい活気だ。
「……ねえ、トーコちゃん。私、昼過ぎからも用事が詰まっているから、できるだけ王宮から近い屋台で、ゴハン決めちゃっていい?」
「あ……、はいっ」
二人は、王宮周辺の屋台を足早に回った。
トーコは豆とチーズが入ったパンと串焼きの魚、ソフィアは葉物野菜が練り込まれたパンと大きなソーセージを買ったのだった。
町から離れると、トーコとソフィアは、王宮の中央にある広い中庭に移動した。
そこには、黄色い葉のカエデだけではなく、赤くて細い葉のニシキギや、様々な色のコスモスなどの花々も咲いていた。
トーコとソフィア以外、誰も居ないようだ。時々、建物の廊下を近衛兵が通るだけだったので、中庭は静かだった。
二人は同じベンチに座って、肩の力を抜いて食事を取ったのだった。
「そーいえばっ。トーコちゃん、いつまで王宮に居る予定なの?」
「正直、少し迷っています……。賑やかな場所は得意じゃないので、今日の夕方には帰ろうかと思ってましたが、オズワルドさん……あっ、婚約者のヒトが、臨時で国王陛下の護衛のお仕事をしているので、少なくとも一泊はしようか、どーしようかと――」
「なら、数泊すればいーじゃないっ! 三泊くらいすれば、どこかで会えるかもだし。てーかー、私っ、トーコちゃんが早く帰っちゃったら、寂しいわっ!」
「え……、ええっ!?」
ソフィアの予想外の言葉に、トーコは目を真ん丸にした。
ソフィアが自分のことを好ましく思っている理由が全く分からなくて、トーコは混乱と動揺が止まらなかったようだ。
「私ね……、年上の兄弟しか居ないから、トーコちゃんのことは『妹』みたいに思っているの。……あ〜、ミア様は幼いから、さすがにガッツリ親戚って感じだけどね」
トーコよりも早く昼食を食べ終わったらソフィアは、トーコの顔を見て、目を輝かせながら微笑んだ。
「それに、トーコちゃんに初めて会った時から、貴女の髪と眼に衝撃を受けたのっ! 確かに独特だけど、神秘的だと思ってる。私、好きよ。竜サンと同じ、黒い色……」
ソフィアの表情と声の抑揚から、決して社交辞令では無いことが分かる。
トーコは何だかむず痒いような気持ちになった。しかし同時に、彼女は少しだけだが、嬉しいと感じたのだった。
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