慌ただしい年末

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慌ただしい年末

 とても長い秋が終わると、あっという間に雪が降る時期になった。  季節は十二月。年越しの準備が始まり、王国の人々は、休みの日には食料品の買い出しで非常に忙しくなる。  王国では、早くて十二月の中旬には雪が積もって、外出しづらくなるので、できるだけ上旬のうちには、人々は買い物を済ませるようにしている。  もちろんイシヅミ町の住民だけではなく、トゲトゲ山脈周辺の村人たちも、イシズミ町やケヤキ村の市場まで買い出しに来る。  スギ村とヒノキ村は、村自体で畑や、養豚場と養鶏場を持っているが、自給自足で取れる食材は少ない。普段は定期的に行商人が来ているが、行商人が運べる食料品は限られている。  それらの理由があり、年末年始用の豪華な料理を作るため、数多くの食材を買う目的で、皆わざわざ遠方の市場まで行くのだ。  また、食料品の買い出しに行くために、市場の近隣に住む者以外の人々は、馬車を使っている。馬車の運営会社は、年末年始の時期が書き入れ時なのだ。  オズワルドは毎年十二月末日に、イシヅミ町在住で剣術教室を開いている、育ての親のレオとホリーの夫妻の家に泊まっている。  今回はオズワルドだけでなく、婚約者のトーコもレオたちの家に呼ばれることになったのだ。  二人がレオたちの家に行く日は、イシヅミ町は雪が降ってはいなかったが、歩くことができるくらいの雪が積もっていた。  山奥のスギ村とヒノキ村は、ケヤキ村とイシヅミ町より多く雪が積もっているようだ。流石に、馬車の運行時間は臨時的に減っていて、出歩く人はほとんど居なかった。  太陽が南中した少し後に、トーコはエドガーに乗って、ツキノハマの王宮まで来た。エドガーは、馬小屋横の自分専用の休み場で泊まるらしい。  乗馬場でエドガーと別れると、トーコは王宮の裏口まで向かった。裏口に出ると、そこにはオズワルドが立っていた。 「こんにちは、オズワルドさんっ! 今日は、よろしくお願いします」  オズワルドが「ああ」と言うと、二人はレオたちの家まで歩き始めた。  町中を歩くと、大人よりも子どもの方が多く外に出ているような気がする。  通路や民家の庭で、大声を出しながら、雪球の投げ合ったり、ソリに乗ったりして遊んでいる。 「子どもは元気だな」 「そうだね。だいぶ久しぶりに、この時期にイシヅミ町の町中に来たから、何だか新鮮かも……」  空気が冷たいせいか、できるだけ早く温かい場所に着きたいようで、トーコもオズワルドも自然と早足になっていた。  そして、二人は予定よりも早く、夕方より前に目的地に着いたようだ。  レオたちの家の門を抜けて、広い庭を通ると、何体かのスノーマンを見かけた。  トーコは、剣術教室の生徒たちが作ったのかなぁと思い、少しだけ()やされたような気持ちになった。  それから、家と言っても、剣術教室の師範(しはん)かつ経営者が所有しているから、庭だけではなく、建物も広いようだ。家よりも、屋敷と言った方がしっくりくる。  夫婦の居住スペースは決して広くはないが、道場とゲストルームは数ヶ所もある。  年に何度か生徒は合宿したりしているそうだ。指導の手伝いで、たまに他の師範も泊まるらしい。  オズワルドたちが居住スペースを訪ねると、レオとリリーは暖炉(だんろ)があるダイニングルームで待っていた。  オズワルドとトーコはレオとホリーに挨拶(あいさつ)をすると、しばらく暖炉の前で体を温めた。  その後、日の入り直前まで、レオとオズワルドはダイニングルームに近い庭で、二人で協力しながら(まき)割りをすることになった。雪は降って無くても相当寒い故、()き木の横で黙々と作業していた。  トーコは、ホリーの夕食作りを手伝っていた。そうしながら彼女たちは、時々ダイニングルームの窓からレオたちの様子を(うかが)いつつ、彼らが小休憩をした時には、ショウガの入った温かい茶を差し入れたのだった。
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