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年越しの夜
日の入りになると、外に居た男性二人はレオたちの家の中に戻ってきた。
ダイニングルームのテーブルの上には、すでに様々な料理が並べられていたようだ。パンにスープに、鶏肉入りの温野菜サラダ。それから、牡蠣のホワイトソースがけ、ローズマリーと魚醤で味を付けた煮豚が、大皿に入っている。
年末年始に、王国の人々が自宅で豪華な料理を食べながら、ゆっくりと過ごすことが一般的である。
リリーが積極的に、それぞれ皆の小皿に料理を入れてくれたので、トーコは何度もお礼を言いながら、ゆっくりと料理を食べた。レオとオズワルドは、ちょこちょこと食べながら、レオが収穫祭で購入したセイシュも飲んでいた。
料理を食べ終わると、一口サイズに切られた梨とリンゴを、それぞれ好きなだけ食べたのだった。
夕食が終えて風呂に入った後、先にゲストルームに行ったのは、トーコだった。
トーコたちが泊まる寝室は、レオたちの居住スペースから一番近いゲストルームで、彼女が王宮で使っていた部屋よりも少し広いようだ。
トーコが寝巻きを来て、初めてゲストルームに入った時、二台並んだシングルベッドを見て、彼女は動揺してしまった。
(な……何か、ベッド同士の距離が近すぎるようなっ!?)
風呂の後に眠気が来たので、ベッドに直行しようと思っていたトーコだったが、気持ちが変わったようだ。それで、ふと彼女は奥の窓の方へ行くと、無意識にイシヅミ町の街並みを眺めてみた。
普段とは違い、多くの民家で夜遅くまで明かりがつけられている。
(そーいえば、王宮に居た頃は海側の部屋だったな。夜景を観ると、異空間に行ったような不思議な気持ちになるみたい……)
しばらく窓の外を観ていたトーコだったが、オズワルドが部屋に入ってくると、我に返った。
「遅くなった。……あ〜。そーいや、どっちのベッドが寝たいか?」
「どっちでもいいよ~」
「なら……、出入り口に近い方を使っていーか?」
「いいよー。……あっ、雪が降ってきた」
オズワルドの方を向いていたトーコだったが、再び窓からの風景を観たのだった。
オズワルドも窓際の方に行くと、トーコと同じように窓の外を観た。
「そーいえば、夕食後にレオさん出かけたみたいだけど、何かあったの?」
「ああ、軍務長官の晩餐会に呼ばれたらしい」
「へぇー……。お偉いサンに招待されるなんて、レオさんって有名人なんだね!」
すると、トーコが笑った時に、オズワルドは彼女の肩を引き寄せて、唇をやさしく重ねた。
「おっ……オ、オズワルドさん……?」
「俺のことを受け入れてくれて、本当にありがとな……。妻になることを望んでくれて、すげー満ち足りている。
……夏に、アンタが告白してくれた時から、ずっと俺も同じ気持ちだ。これからもよろしくな」
オズワルドの予期せぬ言葉を聞いて、トーコは「……うん」とだけ小声で言い、彼の顔を見つめている。
その後も、オズワルドは話を続けた。
「あと……、もう一つ、伝えたいことがあってな……。春の豊穣祭の辺りになったら、旧ニレ村のバラ園に、一緒に行かないか? 豊穣祭の時期に馬車が予約できないなら、四月下旬になると思う。……約束してくれるか?」
「うん……、いいよ!」
やっと会話の内容が頭に入って、トーコが笑顔で返事をした時、ちょうど年越しを知らせる鐘の音が、遠くから聞こえてきた。
「年が変わったな。……そろそろ寝るか?」
「うん、そーだね」
トーコもオズワルドもベッドの中に入った。二人とも向かい合って横になり、とても穏やかな気持ちになった。
少しの間だけ暖炉で暖めておいたとはいえ、隙間風もあるから、部屋はかなり寒い。
流石に、いつもの癖が出ることは無く、オズワルドは服を脱がすに寝るようだ。
「今日は、いろいろと気疲れしただろ。……ゆっくりと休め」
「うん、ありがとう。……お休みなさい」
「……お休み、な……」
そうしてトーコとオズワルドは、新年初日の始まりは、とても静かに熟睡をしたのだった。
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