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婚姻のお披露目
花嫁の待機室の前に行くと、トーコはドアをノックした後、恐る恐る部屋の中に入った。
「失礼いたします……」
すると、部屋の中のドア近くに、見知らぬ中年の夫婦が立っていた。正装の一部に飾りの生花があったので、きっとソフィアの両親だろう。
ソフィアの両親と目が合うと、トーコは緊張しつつも、礼儀正しく挨拶をした。
その後、部屋の奥、化粧台の前を見ると、花嫁衣装を着たソフィアが満面の笑顔で立っているのに、トーコはすぐに気付いた。
「トーコちゃんっ! 来てくれて、ありがとうっ」
トーコは「ご結婚おめでとうございます」と伝えると、ソフィアに近寄った。
そして、ソフィアのいつもとは違う姿を、ものすごく感激したのだ。
「ソフィア様、とってもステキですねっ!」
後ろの裾が長い、純白の上品なドレスを着ていた。まとめられた淡い金色の髪には、白系の生花が付けられたベールを被っているようだ。
「褒めてくれて、ありがと♪」
「ジュリアン様も、見られたんですよねっ?」
「うん、さっきまで居たよ〜。今は、侍女たちに花婿衣装を見せに行っているんじゃないかな?」
「ええっ!? うぅ〜ん、ジュリアン様らしいけど……。ソフィア様がっ、こんなに、本当にっ、すっごくお美しいのに、反応があっさりしすぎてるよーな? ……あっ、もし変なこと言っていたら、申し訳ありません……」
神妙な顔になって俯いたトーコだったが、意外にもソフィアは始終笑みを絶やさないままだった。
「いいのよ、気にしていないしねっ。アイツが不特定多数の女の子と遊び歩いていた理由は、前々から知っているわ。教養やら政やらの猛勉強で疲れ果てていたことは、尋常じゃないくらい辛くて反動しちゃったのよ……。イザベラ様は、ミア様が生まれてから、世話が大変過ぎて、息子の相談相手にならず、放置しっぱなしだったから、ずうっーと後悔してるって、言っていらっしゃったわ。
……まあ、ミア様は、ジュリアン以上に活発みたいだから、乳母や侍女たちだけでは、世話しきれなかったらしいしね~。お兄さんと年が離れている分、元気過ぎるみたい」
「……そうだったんですね……」
「それに、正式に入籍したら、流石に仕事量が増えるから、イシヅミ町には簡単に出歩けられなくなるし。あまり見かけない髪色だから、町の人にも顔を覚えられてるだろーから、出しゃばったことは自然と控えると思うし。……まっ、浮気とかあまり心配していないの。『旧知の仲』って、そんなものよ?」
しんみんとした話をして、一旦無言になったソフィアだったが、話し終わってすぐに目を丸くして、少し慌てた様子になった。
「あっ!! 部屋の外に居る人たちにも、早く挨拶しなきゃっ!」
「私も、大庭でオズワルドさんと待ち合わせの約束しているので、もうそろそろ行きますね!」
「うん、またね〜」
「はーいっ……」
トーコが再びソフィアの両親に挨拶をして、部屋を出ると、小走りで正面前の大庭に向かった。
大庭に近付いていくと、段々と人々の話し声が大きくなってきた。
トーコが大庭に出て、東側の大きなヒイラギの木の前に行くと、オズワルドが立っていた。
「オズワルドさんっ! 寒い中、待たせてしまってゴメンねっ」
「気にしなくていい。……まあ、人混みをかき分けなくて済んだしな」
「早めに来てくれてたんだね。それにしても、やっぱり国の代表のお祝いだから、ものすっごい数のヒトが集まっているね……」
トーコとオズワルドが居る位置は、大庭の端だから多少は余裕があったが、大庭の中央は人口密度が凄まじいようだ。収穫祭の時期の、イシヅミ町の通りぐらいの迫力があった。
過度なぎゅうぎゅう詰めで、本当に誰かが窒息しそうな光景だ。
トーコが軽くクシャミをした後、王宮の屋上付近の鐘が鳴り始めた。
「そろそろかな……?」
「だな。……寒いからな、大丈夫か?」
「うん、何とか……」
自分の息を手のひらに当てながらさすっていたトーコに、オズワルドは至近距離まで体を寄せた。
その時、王宮二階のバルコニーから、ジュリアン王子とソフィア妃、国王陛下夫婦が登場した。
多くの使用人たちが、屋上と三階のバルコニーから、色とりどり無数のバラの花びらを、繰り返し降らせている。
「ジュリアン様〜! ソフィア様〜!」と、人々の大歓声が大庭中に響いている。ジュリアン王子のスピーチがなかなか聴き取りづらい。
ジュリアンたちが姿を見せなくなってからも、国民たちは熱狂的に歓声を上げ続けていた。
風のせいか、勢いよく上から降らせたせいか、庭の後方の端に居たトーコたちの髪や服にも、バラの花びらがくっついていた。
トーコとオズワルドが、自分たちに付いたバラの花びらを取っている時、彼女たちの元にジョンがやって来た。
トーコたちがジョンと話していると、別の場所でジュリアンたちを見ていたレオとホリーが、彼らの傍に来たようだ。
ジョンとレオ夫婦が互いに挨拶をした後、一緒に居た五人は、しばらく大庭で談笑していたのだった。
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