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李 星轩の事情
李 星轩 は中国最大の都市北京で生まれ、愛情豊かな両親と三人暮らしだった。
父親は中国で一番難関と言われる大学で教鞭をとり、母親も同じ大学に勤務していた。
両親の仲はよく、息子星轩 も両親の期待を一身に受け、中学高校と成績はいつも上位だった。
星轩 の希望は子供の頃親子三人で訪れた日本への留学だった。
自然と情緒溢れる日本に憧れ、優しい人柄に親しみを感じていた。
留学する事は両親も賛成していたし、経済的にも成績も問題はなく、高校を卒業したら日本への留学は決まったも同然だった。
だが、高校一年も終わろうとしていた時、両親の乗った列車が事故を起こし、身元不明のまま両親は亡くなった。
二人が列車に乗ったのは、自分が駅で見送っている。
それでも、二人が列車に乗ったという証明が出来ない以上、国からの補償は受けられない。
両親の貯えも手をつけられなくなり、二人は消息不明とされた。
一人残された星轩 は、ギリギリの生活を余儀なくされ、日本への留学も諦めざる得なくなった。
そんな時、成績優秀者は国の援助で留学できる制度がある事を知った。
高校の二年間を必死に勉強し、日本への国費留学の資格を得た。
国費留学生は四年の学業が終わったら、帰国し国の為に働く事が条件になっている。
もし、そのまま留学先に居続けるなら、貸与された国費を全て返納しなければならず、それは膨大な額だった。
当然自分も卒業したら帰国するつもりだった。
だが、匠 凛太郎を好きになった事で四年後の帰国が不安になった。
もし、このまま彼との付き合いが続いたら・・・・・日本を離れたくないと思うだろう。
誰も知る人のいない場所へ帰るより、好きな人のそばに居たいと思うのは当然のことだった。
凛太郎の事を好きになれば好きになる程、卒業後の事が心に重くのしかかった。
これまで、男の人が好きだと思った事も自分がゲイだと感じた事もなかった。
恋愛した事はなかったが、クラスの女子を好ましいと思ったこともあったし、話しかけられれば胸がときめいた事もあった。
まさか、自分が男子を恋愛対象として好きになるとは思ってもいなかった。
匠 凛太郎を始めて見た時、彼の魅力に虜になった。
見た目は勿論文句なく良かったし、自分に対して優しかった。
両親が亡くなってから、愛情や人の温かさに飢えていたのかもしれないが、彼の優しさが心を温めてくれた。
彼の視線を感じる度に嬉しくて、彼に話しかけられる度に胸が高鳴った。
彼を好きだと感じていた。
男の自分が彼を好きになった事で、彼から嫌われたり気持ち悪がられたら・・・・・そんな心配があった。
それでも、彼と話したかったしそばに居たかった。
大学でも一緒にいる事が多くなって、彼が自分を避けていない、むしろ好んでいてくれると思った。
思い切って彼に告げた時、彼も好きだと言ってくれた。
彼の友達にも紹介された時、彼には何の偏見もないのが分かった。
彼のそばに居続けたいと思った。
卒業しても日本に居たいと思った・・・・・だが、それは無理だった。
卒業迄の時間を大切にする、そう決めて彼との付き合いを始めた。
キスのその先がどういうものかは想像するしかないが、彼が望むなら構わない。
凛太郎が好きだし、彼に抱かれたいと思った。
彼のことを想うだけで幸せな時間を過ごせた。
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