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キーホルダー
キーホルダーをもらってから、女からの誘いを断っていた。
女からの電話を煩わしいと感じ、女の身体に触りたいと言う欲求も湧かなくなった。
あれ程毎日のように、誘われたり誘ったりしていたのが嘘のように、その気にならなかった。
こちらから電話をすれば、すぐに応じる女が何人か居たし、そんな事をしなくても向こうから誘われる事も多かった。
ホテルでサンダルを投げつけた女も、その後謝りの電話をかけてきた。
逢う気はなかったが、とりあえずサンダルだけは返した。
授業が終わってバイトへ行って、終わるとすぐにマンションへ帰った。
アイツと顔を合わせる事はないが、部屋にいる気配は感じていた。
まだ、寝てはいないはずなのに出てくる事はなく、だからと言ってこちらから、ドアを叩くわけにもいかない。
お互い干渉しないと約束して始まったルームシェアだから、余程の用が無い限り逢ないのが当たり前だった。
朝食を一緒に食べてから、何度か朝は顔を合わせる事が多くなり、その時彼は必ず朝食に誘ってくれた。
彼の作った朝食を食べて、一緒に大学へ向かう。
そんな些細な事が嬉しかった。
彼と並んで歩くと、なぜか守ってやりたい気持ちになった。
歩道を歩いているのに、車の動きが気になったり、手を繋ぎたくなったり、よろけたわけでもないのに、肩に手を掛けてみたり、挙動不審の自分がいた。
「匠君、急ぐなら先に行って」
歩幅の違いか、遅れそうになった彼がそんな事を言った。
だから、俺は笑いながら「そんなに気を使わなくていいよ」と言った。
「匠君、脚長いね。だから女の子にモテるんだね。もちろん顔もいいけど」
照れたように言う彼の方がずっと可愛くて、きっと女の子達にも人気なんだろうと思う。
そう言えば彼が女の子とデートした話はまだ、聞いた事がなかった。
ただ単に俺が知らないだけかもしれないが・・・・・
出かけるのは決まって、新名 蓮音だった。
「彪も女の子にモテるだろ?彼女は?」
「居ないよ、それに僕モテたことないし」
「気が付かないだけだろ、絶対女の子がほっとかないよ」
そう言いながら彼の方を見ると、なぜか少し困ったような顔をしていた。
何か彼の気に触ったことを言ったのだろうか・・・・・
「彪、俺なんか余計なこと言った?」
「そんな事ないよ、気にしないで」
明るい顔でそう言われて少しだけホッとした。
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