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友達
友達なら二人で出かけるのも構わないんじゃないか・・・・・
そんな気がして、松木田 彪を誘った。
「今度さ俺と二人で出かけよう」
恐る恐ると言った感じでそう言った。
「匠君と?何処へ」
驚いたような顔でアイツが俺の顔をマジマジと見て聞いた。
ただ単なる友達同士の誘いなのに、そんなに驚く事だろうかと、むしろこっちが驚いた。
「そうたな、映画とかランチとか・・・・・」
気楽な感じでそう答える。
「・・・・・いいよ」
明るい顔でそう言われて、嬉しい気持ちとホッとした気持ちになった。
新名 蓮音と居た時と同じように笑ってくれるだろうか、それとも新名は特別なのか・・・・・
誰かをこんな真剣に誘ったことも、その返事にドキドキしたのも初めてだった。
同じ男なのに、なぜこんなにドキドキするのか女を誘う時でさえ、ドキドキなんてした事がないのに・・・・・
約束の日曜日、待ち合わせする必要もなく、同じ部屋に住む同士、一緒に朝ごはんを食べて服を着替えて部屋を出た。
「オッ!彪の私服いいね」
「匠君もカッコイイ」
玄関で靴を履いていると、彪の携帯が鳴った。
「蓮音、おはよう」
「匠君と出かけるところだよ」
「映画」
新名 蓮音との会話はすぐに終わったが、どこへ行くのか聞かれているようだった。
二人の意見が一致して、アクション映画を選んだ。主役のハリウッド俳優が日本にキャンペーンに来た事もあり、観客は多かった。
だが、期待したわりには結果は最悪だった。
ストーリーが全くつまらないばかりか、ラストが呆気にとられるほど尻切れトンボで、終わった後の焦燥感は半端なかった。
「彪、面白かったか?」
「全然、つまらなかった。匠君は?」
「俺も、むかつくほど駄作だったな」
「匠君、途中から寝てたね」
怒るでもなく、笑いながらそう言った彪の顔はこの前見た顔と同じだった。
親友新名 蓮音と同じ顔で笑ってくれた事が、なぜかとても嬉しかった。
「ごめん」
寝てしまったことを謝り、ランチを食べにハンバーグ専門店へ。
その時俺達の前に、新名 蓮音が立った。
「彪!」
「蓮音」
「映画に行くって言ってただろ」
だからなんだと胸の中で呟き、新名を睨む。
新名は彪の腕を掴むと、自分の方へ引っ張った。
突然引っ張られた彪は新名の胸に倒れ込んだ。
「蓮音・・・・・」
彪が怒った顔で新名を睨む。
「帰るぞ」
新名は当然のように、そう言った。
「蓮音・・・・・」
なぜ、新名がそんなことを言うのか、意味がわからずムカついた。
「おい!邪魔するな」
「黙ってろ」
何故こうなるのか、新名と剣呑な雰囲気になりながら、新名の怒る意味が分からなかった。
「蓮音、喧嘩しないで」
「彪、帰ろう」
新名が彪の顔を見てそう言った。
彪は俯き、小さくうなづいた。
「匠君、ごめん」
「彪」
新名は彪の手を引いて歩き出した。
一人その場に残された俺は追いかける事も呼びかける事もできず、去っていく二人を黙って見送った。
新名 蓮音の迫力に負けて身動きできなかった。
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