理由

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理由

(あや)と新名の関係が分からない。 新名は(あや)を束縛しているとしか思えなかった。 自分以外と映画に行った(あや)を新名は(とが)めていた。 そして咎められた(あや)は、新名の言葉に従った。 従う理由が何なのか、二人がそう言う関係なら、俺の誘いに乗るはずがない。 映画に誘った時、(あや)の表情は嬉しそうだった。 迷惑でも困ったようでもなく、と言った。 マンションへ戻ると、(あや)は既に帰っていた。 部屋から出てくる事はなく、さっきの状況を説明する事もなかった。 ドアを叩けば出てきたかもしれない、でも出来なかった。 (あや)を責めることはしたくなかったし、新名と帰ったのが、彼の意思だとはどうしても思えなかった。 だから、今ここで(あや)を問い詰めるような事はしたくなかった。 理由を訊ねるなら、新名に聞くべきだと自分の中で結論を出し、後日新名に直接聞こうと決めた。 あの時の新名の態度と(あや)の表情の理由をどうしても知りたかった。 彼の学部が電子物理学だった事を思い出し、翌日時間を見つけて新名のいそうなところを、探し回った。 何となく、見つかると言う確証はあった。 とにかくアイツは目立つ、あれだけの身長で並外れた容姿は滅多に居ない。 学生が多くても、見つける自信はあった。 午前中二度行ったが見つからなかった、昼食後の講義を終えて、再度歩き回る。 その時三人の学生が目に入った。 その中の一人は確かに新名だった。 直ぐに彼のそばへ行くと、連れの二人が自分に気がついた。 どう見ても友好的とは思えない視線を向けられたが、躊躇している場合ではない。 「新名、話がある」 「何だ?」 「アイツの事でお前に聞きたい事がある」 ここで敢えてアイツと言ったのは、連れの二人に(あや)の事を知られたくなかった。 彼らが(あや)を知っているかどうかは分からないが、ここで俺と新名の話題が(あや)の事だというのを避けた。
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