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新名と彪
その日正門前まで来ると、新名が彪を待っていた。
何とも表現の仕様のない顔で俺を睨みつめていた。
原因なら大いにある、新名と会って話をしてから一度も会っていない。
あれから自分たちがどうなったのか、彼には想像もつかないだろう。
友達として、ショッピングやランチをしていると知ったら、驚くだろうか、それとも怒るだろうか。
新名が何と言おうと、俺と彪は今の関係に納得している。
「彪、話したい事がある」
「うん、わかった。
匠君、じゃぁまた」
彪は俺にそう言うと、新名と二人で歩き出した。
彼が彪に何を聞くつもりなのか、彪が何と返事をするのか、気にはなったが、不安はなかった。
「俺がこの前なんて言った?」
「匠君の事は諦めろって・・・・・」
「だったら、なぜアイツと一緒に居るんだ?」
「僕は彼のことをそう言う気持ちで好きなんじゃない、友達になりたいだけだ。蓮音と同じ気持ちだから、彼に恋人が居ても何とも思わないよ。蓮音と僕もそうだろう。蓮音に恋人ができても、僕は何とも思わないのと一緒。匠君とは友達になっただけ、それ以上でも以下でもない」
「本当にそうか?自分に嘘はついてないか?」
「心配し過ぎだよ。本当にただの友達。僕はもう大丈夫だから。それにもし、僕のことを知っても、彼ならひどい事は言わないと思う。驚くだろうけどね、驚いて、離れて行ったらその時はそれでいいと思ってる」
「彪、分かった。お前がそう言うなら、大丈夫だろう。良かったな」
「うん、蓮音が居てくれて心強いよ」
「何かあったら、すぐに俺に言え。我慢したりするなよ」
「はいはい、蓮音も彼女を大切にね」
「彼女じゃねーよ」
蓮音は照れたように笑いながら、離れて行った。
僕は一人ベンチに座って彼の後ろ姿を見ていた。
彼の過剰すぎる思いやりが、自分に安心をくれる。
彼が居れば何があっても、大丈夫だと思えた。
子供の頃の想い出もいつも彼と一緒だった。
喧嘩をした事も、疎遠になった事もなくいつもいつも、どんな時も彼がそばに居た。
彼女よりお前の方が気を使うと言ったのも、まんざら嘘じゃないだろう。
それ程彼は僕を優先してくれた。
彼のような人が恋人なら良かったのに・・・・・彼が自分と同じ側の人なら良かったのに・・・・・
匠 凛太郎も新名 蓮音も、どうして好きになる人は皆んな自分とは反対側の人なんだろう。
自分だけが人とは違う・・・・・大きな河の向こうとこっち、渡れない河の向こう側にいる人を好きになる愚かな自分・・・・・
向こう側にいる人達を羨ましく思いながら、諦めるしかない自分に泣きたくなった。
向こう側ばかり見ないで、こっちを見ろと誰かが囁いた。
そうだ、今度こそ振り向いてこっち側に居る人を見てみよう。
きっと、自分に相応しい人が居るはずだと思う。
ベンチから立ち上がり、講義を受ける教室へ向かった。
新たな挑戦に挑む決意を決めた。
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