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いつまでもウジウジと叶わない夢ばかりを追うのはやめた。
そう決心してゲイ達の集まるバーへ向かった。
高校生の頃、興味本位で見た自分と同じセクシャリティ達の集まる場所。
初めての場所で不安と心細さとわずかな恐怖を持って開いたドアの向こうは、意外と明るく楽しげだった。
ここに居る人たちが、皆んな自分と同じだと思うとホッとする。
カウンターの隅に腰掛けて、慣れないアルコールを手に持った。
冷たいグラスの中で透明な氷がぶつかり合う。
「こんばんわ、君初めて見るね」
隣に立った男性はやわらかな低い声で話しかけてきた。
これまで一度も見たことのない、洗練された大人の男だった。
こんな人と話せることが嬉しかった。
「・・・・こんばんわ」
「隣に座っていい?」
「はい」
「慣れてないね」
「・・・・・」
「大丈夫、怖い人は一人もいないよ」
確かに皆んな楽しそうに話をしている。
この場所は僕と同じ人達の安心できる場所だと思う。
「君の名前教えてくれる?こんな場所だから、フルネームじゃなくていいよ。なんて呼ばれたい?」
「彪」
「あや?そうか、いい名前だね。私は琉空 」
「ルーク?」
「そう、歳は君よりずっと上かな」
「僕は19で、大学に入ったばかりです」
「どうしてこんな場所へ来たの?」
「僕はみんなと違うから・・・・・同じ人に会ってみたくなって・・・・・」
「君は男の人が好きなんだね、これまでそのことで嫌な思いをした?」
「・・・・・はい」
「そう、でも、君が他の人と違っても変じゃないよ、人はそれぞれ違うだろ?女が好きな人も男が好きな人も同じ人間だから、気にする事はない。君は誰よりも魅力的で素敵な人だ。私と付き合ってみる?」
彼と居ると、安心して話ができた。
これまでの色々な不安も彼なら聞いてくれると思った。
彼に付き合ってみるかと言われて、思わずうなづいた。
彼に誘われて店を出る、タクシーに乗って彼の後をついて、聞いたことのある豪華なホテルへ着いた。
そのままエレベーターで彼の部屋へ向かった。
チェックインもしてないとか、彼がどこの誰だとか何も知らないまま、彼の後をついていく。
ドアを開けて中に入ると、向こう側の大きな窓には、キラキラと煌めく夜景が見えた。
「あや、おいで」
「ルーク・・・さん」
「るーくでいいよ、どうして欲しい?」
「・・・・・僕・・・・・分かりません」
「初めてなんだね。どうする?私と初めてをしてみる?」
「・・・・・」
覚悟を決めて、小さく頷いた。
「キスは?」
「・・・・・したことないです」
「私の膝に乗ってごらん。キスしよう」
心臓が口から飛び出しそうなくらい、激しく鼓動を始めた。
膝が震えて思わず彼に手を差し出した。
その手を彼が引いた。
そのまま膝に抱え上げられて、両手で抱きしめられると、身体中が溶けてしまいそうになった。
彼から甘くて良い匂いがして、鼻の奥を痺れさせる。
いつの間にか、閉じた瞼に彼の柔らかな唇が触れた。
熱い息が鼻にかかり、自分もいつしか熱い吐息が漏れていた。
「あや、君は本当に綺麗だ。本気で好きになっていい?」
「僕も・・・・・好きです」
「そうだ、まずは私の素性を話さないと不安だろ?どこの誰かもわからないんじゃ、キスより先に進めないよね」
彼はそう言うと、名刺を僕に渡した。
「私は東海 琉空 30歳、東海建設の社長だよ。嘘だと思うなら、ホームページを見てごらん」
「嘘なんて思ってません」
「思ってないけど、不安な顔してるよ。言ってごらん、何でも答えるから」
「あの店でいつもこんな風に誘うんですか?」
「困ったね、あの店は僕の店だよ。お客様を誘うなんて、初めてした。君を見た時、ほっとけなかったんだ。危ない奴に捕まる前に私が捕まえたんだ。君は無防備で心配だったし、君を他の人に渡したくなかったからね」
「僕そんなに、無防備でした?」
「店の中で一際目立ってたし、お客様の視線を独り占めしてたのに、気づいてなかったんだろ?」
「・・・・・そんな魅力なんてありません」
「あや、君が知らないだけだよ。一目見て私は君に夢中なんだから。おいで、もう一度キスしよう」
初めてのキスに夢中で彼にしがみついた。
彼の大きな手が頭を押さえつけて、息が苦しくなるほど長いキスが続く。
「あや、今夜はキスだけにしておこう。その代わり朝まで一緒に寝てくれる?」
「うん」
「じゃぁ、シャワーを浴びておいで」
彼に言われるままシャワーを浴びると、彼もシャワーを浴びてバスローブのままベッドへ誘われた。
「さぁ、今夜は私達の初めての夜だから、抱き合って寝よう」
バスローブを脱いで裸のまま彼と抱き合った。
彼の胸に顔を伏せ目を閉じる、彼の手が背中を撫でた。
その優しい手の感触に自然と眠くなる。
髪に優しくキスされるのもうっとりするほど気持ちよかった。
そしていつの間にか夢の中へと落ちていった。
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