189人が本棚に入れています
本棚に追加
変わる
バイトは週に4回程度、それでもたまに増える事も、時間延長を言われる事もある。
これまで一度も断った事はなく、むしろ有難いと思っていた。
それが今は、シフト以外は断るようにしている。
なるべく早く部屋へ戻りたくて、バイトが終わるとすぐに帰る日が続いていた。
バイトのない日は、二人で夕食を作り、二人揃って食事をした。
これまで家庭の味だとか、手作りだとかそんなものに憧れを持った事も、懐かしいと思った事もない。
元々味わった事もないのに、懐かしいと思うはずがない。
それでも二人で作った料理はこれまで食べたどの料理より、美味しかった。
女の機嫌を取るために、奮発したフランス料理や、お洒落な雰囲気のイタリアンよりも、ずっと満足だった。
料理は誰が作ったではなく、誰と食べるかで味が違うのかと思うほど、アイツと一緒の食事は温かく、そして美味しかった。
あれ程頻繁に会っていた女とも、最近は逢おうとも思わなくなった。
誘いの電話やメールは有るものの、無視する事が多い。
元々、それ程好きだという感情を持って逢っていたわけではなかった。
そう考えると、勝手な男だとサンダルを投げた女の気持ちもわかる気がした。
ただ、やりたいだけで女に会っていたのだと思う。
そしてたまに、彪を見ていると、どんな風にキスをするのだろうとか、どんな顔で男に抱かれるのだろうかと、不埒なことが頭を掠める。
彪が男であることは間違いないし、これまで男に欲情した事はないのに・・・・・彪を護りたいと思いながら、心のどこがで彪を犯している自分がいた。
友情を恋慕と履き違えてしまっては身も蓋もない。
彪が友達だと言った事を改めて自分に言い聞かせた。
このままずっと友情が続けばいいのに。
そんなつぶやきが、心の隅にぽろりと落ちる。
その日バイトが終わって急いで帰ったのに、彪は居なかった。
そして、朝まで戻ってこなかった。
彪が外泊したのは初めてだった・・・・・
最初のコメントを投稿しよう!