目覚め

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目覚め

大きな腕に抱かれたまま目を覚ました。 目の前には丹精な男の顔があった、ゆうべの自分の行動を思い出す。 今更ながら大胆で危なかしいことをしたと思う、ネットで見ただけのゲイの集まるBAR。 ただそれだけであの店へ行った、初めての店で初めての男とホテルでキスをした。 どれもが初めてで自分でも信じられない。 彼が悪い人なら、今頃は手足を縛られ犯され、見知らぬ国へ売り飛ばされていたかもしれない。 また安心はできないけれど、目の前で寝ている男に危機感は起きなかった。 トイレに行きたくて、彼の腕を身体から外してベッドから降りた。 彼の裸の身体が見えて、その逞しさと大きさに目が釘付けになった。 慌ててトイレへ駆け込んだ。 用を足してベッドへ戻ると、彼が目を覚まして僕を見ていた。 「あや、いなくなったかと思って心配したよ」 「トイレに行ってました。起こしてすいません」 「そんな事はないよ、おいで!」 布団をめくられて、彼の隣に滑り込む。 「あや、おはよう」 そう言って、抱きしめられ額にキスされた。 どこまでも優しくて、離れたくない気持ちが湧いた。 「今日は休みだろ?どうする?私の部屋へ行く?」 「ルークの部屋?」 「そうだよ、私の住まい」 「誰か居る?」 「奥さんとか?恋人とか?居ると思う?」 「分かりません」 「居ないよ、私は独身だし結婚はしない・・・・・と言うか出来ない、あやと同じだから・・・・・」 「僕と同じ?」 「そう、だからあの店を作ったんだ。臆病な人達の為にね」 「そうなんだ・・・・・」 「あや!まだ不安?私のこと信じられない?」 「そんなこと思ってません。信じられます」 「そうか、良かった。じゃぁ、起きて朝食にしよう」 「はい」 これまでずっとビクビクと怯えていたことが嘘のように晴れやかな気持ちだった。 彼と居ると気持ちが落ち着き、素直に好きだと言える。 これまで、自分の気持ちを誰かに伝えるのが怖かった。 高校生の頃のひどい言葉が脳裏から消えてくれなくて、何度も泣いた。 彼のそばに居るだけで、何でもないことのように思えてくるから不思議だった。 彼が自分と同じ側の人間だと言ってくれたことが、どれほど嬉しかったか。 もう二度と向こう側の人を好きになって、苦しむ事はない。 それだけで胸に溜まった黒い塊が消えていた。 二人だけの豪勢な朝食を済ませて、ホテルを後にした。
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