快適な暮し

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快適な暮し

思った以上に快適な毎日だった。 彼と同居したとはいえ、顔を合わせることはほとんどなく、たまにリビングですれ違う程度で、それでも誰かの気配があるだけで、寂しさや不安はなかった。 彼は予想以上にいい同居人で居てくれた。 風呂やトイレは使った後キチンと片付け、壁や床も綺麗だった。 部屋を散らかすことも汚すこともなく、自分の部屋以外では最適な同居人だった。 入居時に言ってたように、キッチンを使って食事を作ることもなく、弁当の空がゴミ箱には入っていることもなかった。 毎日食事を提供してくれる人が居ると言う事なのか、それとも単に外食派なのか・・・・・ 自分の一人の食事を作りながら、彼はどんなものを好んで食べるのだろうかと考えた。 彼に手作りの料理を提供することなどないと分かっていながら、彼が食べる姿を想像する。 同じ大学でも、学部が違えばほとんど会うことはない。 構内は勿論学食やカフェでも、見かけることすらなかった。 高校生の頃のように、見ているだけで満足だったはずが、見かけることもなくなった。 同じ部屋に住んでいるのに、あの頃より遠くなった彼だった。 日曜日の朝、遅めの朝食を摂っていると彼が部屋から出てきた。 ゆうべ深夜に帰ってきた事に気づいていた僕は、つい言わなくていい言葉を口にしていた。 「おはよう、もう起きたの?」 「もうって・・・・・?」 しまったと気づいた時には遅かった。 「・・・・・ごめん」 「俺が帰ってきたのに気がついたのか?それとも起きてたのか?」 怒った様にそう言われ、慌てて何と言えば不自然ではないだろうかと考えた・・・・・頭を巡らし、出た答えは最悪だった。 「ドアの音で目が覚めたんだ」 「悪かった」 咎めたつもりはなかったし、お互い自由だと言ったはずなのに・・・・・口にした言葉は彼の深夜帰宅を咎める言葉だった。 「たまたまだよ、いつもは気が付かないし、寝たら滅多に目は覚めないから気にしないで・・・・・」 彼はそれ以上何も言わなかったが、さっきの僕の言葉が気に入らなかったかもしれない。 暫くして部屋から出てきた私服の彼は、見惚れるほどカッコよかった。 あんなにオシャレして、どこへ行くのだろうと気にはなったが、もちろん聞くわけにはいかない。 僕はただのルームシェアの相手だから・・・・・ 彼が出て行った後、自分の部屋の掃除と洗濯をした。 そして、親友新名 蓮音(にいなれんと)に電話を入れた。
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