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親友 蓮音
新名 蓮音とは、子供の頃からの友達だった。
小学校から中学、高校といつしか親友と呼べるほど何でも相談できる相手だった。
僕が女性を好きになれないと言った時も、気にすることもなく受け止めてくれた。
男しか好きになれないと言った時も揶揄うことも無く、真面目に聞いてくれた。
もちろん、蓮音に彼女ができた時も僕は真面目に相談に乗った。
別れたと泣いた時は慰め、新しい恋が始まったと聞いた時は一緒に喜び合った。
嬉しい話も悲しい話も悩みも後悔も全部共有した。
蓮音と待ち合わせをして、新しい服を買い、ランチを食べる為にカフェへ向かった。
デパート近くのカフェは昼時で賑わっていた。
30分待って中へ入ると、テーブル席へ案内された。
黒いカフェエプロンを着けた店員が、水とメニューをテーブルに置いた。
「ありがとう」と見上げた顔は、さっき部屋で見た彼だった。
この店でバイトをしているとは知らなかった、彼の顔を見てアッと口を空けたまま時間が止まった。
「いらっしゃいませ、お決まりになりましたらお知らせください」
驚いた風もなくそう言われて、しばし呆然とする。
蓮音に「おい!」と言われて我に帰る。
「あれ、お前の同居人じゃなかった?」
「うん、確かに・・・・・」
「アイツがいるって知ってた?」
「知らない・・・」
それは嘘ではない、彼がどこでバイトをしているか、どこへ出かけるのか、聞いたこともないし、言われた事もない。
メニューを見ながら、頭の中では彼の顔がグルグルと回っていた。
「何食べる?」
「蓮音と同じで」
蓮音が片手を挙げると、彼が注文を聴きに席へ来た。
「日替わり二つ、珈琲は食後にお願いします」
「かしこまりました」
彼も蓮音も必要以上の言葉は言わない。
店員と客の会話だけで、食事が届いた。
二人で好きなおかずと嫌いなおかずをいつもの様にシェアしながら、食事を済ませると彼が食後のコーヒーをテーブルに置いた。
いい香りが鼻腔をくすぐり、美味しいランチに満足だった。
もう二度とこの店には来ないだろうと、心に決めて店を出た。
外に出て大きく息を吐く。
蓮音が俺を見て笑った。
「お前、あいつと一緒に住んでて大丈夫なのか?」
「何が?」
「毎日一緒に居るのに、あんなに緊張してて部屋ででくつろげるのかって」
「大丈夫だよ、部屋では滅多に顔合わせないから・・・・・」
とは言え、今朝の会話を思い出す。
たまに会うと、緊張して思わぬ失態をやらかす自分、彼が自分のことをどう思っているのかなんて、気にしても仕方がないと忘れることにした。
蓮音と別れて部屋へ戻ると、買った服を試着した。
鏡の中の自分が少しオシャレになった気がした。
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