とりあえず

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とりあえず

マンションから蓮音(れんと)の部屋まで、歩いて一時間。 一人の時は気楽だったのに、蓮音(れんと)に腕を引かれて歩くのは、恥ずかしさで長い時間歩かされた気分だった。 蓮音(れんと)は怒っているのか、口もきかず足早に歩き、時々振り返っては僕の顔を見た。 重永さんの門から入り、庭をまわって蓮音(れんと)の部屋の入り口に辿り着いた。 さっきまで寝ていたリビングのソファに座ると、蓮音(れんと)は僕の足元に座った。 そして僕の両膝に手を置いた。 僕の顔を下から見上げて蓮音(れんと)が言った。 「(あや)、俺は今まで好きになったのはお前だけだ。信じるか?」 「・・・・・」 「抱いていいか?」 蓮音(れんと)が甘い顔で、そう言った。 そんな事を聞かれても、何と返事をすればいいのか分からない。 とりあえず、お腹が空いたし抱かれるとしてもシャワーぐらいは浴びたかった。 授業が終わって、そのままこの部屋に来てソファで眠って夢を見た。 二人とも晩ごはんを食べていない、それどころでは無かったとは言え、慌ててセックスになだれ込みたくはない。 「蓮音(れんと)、とりあえず晩ごはん食べよう。お腹すいた」 「お前・・・・・このタイミングでお腹空いた?」 「だって、晩ごはん食べてないしシャワーもしてないのに、その気にならないだろ」 「成る程、お前余裕だな」 そんな風に言われると困るけど、余裕がある訳じゃない。 「蓮音(れんと)との始めては、慌ててしたくないだけだよ。ずっと好きだった相手だし・・・・・蓮音(れんと)にとっても、そうだろ?」 「・・・・・まぁな」 何となく変な空気が漂い、二人は母屋のダイニングへ向かった。 華さんが晩ごはんを作って待っていた。 「遅かったのね」 「華さん、すいません」 出された料理はとても美味しかった、蓮音(れんと)も僕も空腹だった事を思い出したように、お代わりをしながら晩ごはんを食べ終えた。 華さんにお礼を言って、部屋に戻ると蓮音(れんと)は先にシャワーを浴びると言って、バスルームへ向かった。 僕はソファに座って、蓮音(れんと)が出てくるのを待った。 待ちながら、しばし考えた。 これまで親友だった蓮音(れんと)とそんな雰囲気になるだろうか、もしならなくても、蓮音(れんと)は今更やめられないだろうし、やめられても困る。 琉空 (るーく)の時はどうやってそんな雰囲気になったのか、思い出そうとしたけど思い出さなかった。 忘れたのか、記憶を抹消したのか・・・・・忘れたのなら、無理に思い出す必要も無いと、早々に諦めて蓮音(れんと)に任せる事にした。 蓮音(れんと)なら、これまで充分な経験がある。 僕をその気にさせるのも簡単かもしれない。 そんな僕の気も知らないで、蓮音(れんと)はなかなかシャワーから出てこなかった。 僕はソファに横になって、蓮音(れんと)を待った。
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