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匠 凛太郎の事情
母が亡くなって、父が再婚した相手は最悪の女だった。
母がいい母だったわけではないが、それにしても親父の女性感を疑わずにはいられないほどの、性悪女を連れてきた。
亡くなった母に可愛がられた記憶はなく、いつも機嫌が悪く自分や使用人に当たり散らし、時には手を挙げる事もあった。
仕事人間の父は仕事の成功と引き換えに、女を見る目が欠落したのだろうと本気に思うほど、二人の女は最悪だった。
優しい母とか、美味しい手料理とかの記憶は全くなく、母とはそう言うものだと思っていた。
女全般がそうだとは思わないが、女の本性はみんな似たり寄ったりだと思うのに時間はかからなかった。
自分にとって女は単に性の捌け口でしかなく、告白する女には少なからず嫌悪感すら感じていた。
それでも女性の身体を抱く時の感触だけは、飽きる事はなかった。
嫌悪と渇望・・・・・女に対する感情はそれに尽きた。
女に愛情や優しさを求めたわけじゃない、そんなものは信じていないし、そこに真実などあるはずがないと思っている。
家庭での疎外感や居心地の悪さも、一人暮らしをする事で解消された。
松木田 彪との同居が快適だったせいかもしれない。
彼の穏やかさと、優しい物腰や声に安らぎと居心地の良さを感じていた。
こんな風に自宅でくつろいだ気持ちになった事はこれまで一度もなかった。
松木田 彪に直接会う機会は滅多になかったが、彼の存在はそこここに感じていた。
風呂やトイレや洗濯など、共有する物に彼の心遣いを感じた。
綺麗に整えられたシャンプーやコンディショナー、ボディーソープ、タオルの類も共有するのに何の抵抗も感じなかった。
清潔で綺麗なトイレも気持ちが良かった。
高校時代、美しいだけだと思っていた彼の存在が、人間的に身近に感じられた。
ルームシェアでの二人の約束事さえ守れば、毎日は穏やかなはずだった・・・・・
彼があんなに怒るとは思わなかった。
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