蛍火(ほたるび)

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「ええ。前胸部(ぜんきょうぶ)の赤も警告色だとされています。そういえば、京大などの研究グループが、中国にいるヤマカガシの仲間の毒蛇(どくへび)が、蛍の幼虫を食べて毒を(たくわ)えていることを解明したんです。日本のヤマカガシはヒキガエルを食べて毒を得ているそうで、食性が違うんですね」 「なるほど、ヤマカガシは毒を生合成(せいごうせい)できないんですね。蛍の場合は?」 「進化のかなり早い段階で毒を持っていたわけですから、生合成だと思います。成分はヒキガエルの毒と同じ強心(きょうしん)ステロイドのようです。ただ、それが蛍の体内でどのように生合成されるのかを解明した論文というのは、まだ読んだことがありません。ヒキガエルの強心ステロイドについて、生合成を示唆(しさ)する論文はありましたが……」 「やれやれ、食事中に毒だのヒキガエルだの、(めし)不味(まず)くなる」  突然、大隈源太郎が不機嫌そうにつぶやいた。 「あ、すみません。毒物は自分の研究分野なものだから、つい夢中になってしまって……」 「前園さんが謝ることなんて何もありません。謝るのはこの人のほうです」
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