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「飛びまわる蛍の数がかなり減ってきましたね。活動に周期性が?」と、柏木が周囲を見まわしながら尋ねた。
「ええ。一晩に三回ピークがあります。一回目が最も規模が大きくて、日没直後から二時間ほどです。その後は、午後十一時前後と午前二時前後に、また飛翔が活発になります」
「光の洪水のような大乱舞ももちろんいいけれど、こうして数匹の蛍が飛んでいるのも風情がありますね」
「ええ。『ただ一つ二つなど、うち光りてゆくもをかし』清少納言の言う通りですね」
翠がそう答えた時、支配人の小森慎一が遊歩道につながる石段を足早に下りて近づいてきた。年齢は四十歳、極度の痩身で、角ばった黒縁の眼鏡をかけている。
「お食事の用意が整いましたので、ご案内に参りました」
額に汗をにじませながら小森が言った。
「小森支配人、わざわざありがとうございます。では、柏木さん、前園さん、そろそろ戻りましょうか」
「そうですね」
柏木はうなずきながら答えると、先に立って歩き出した小森に声をかけた。
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