蛍火(ほたるび)

12/40

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 柏木達が案内されたのは五階建ての別館の最上階にあるVIPルーム、『胡蝶(こちょう)()』だった。別館は高台(たかだい)にある本館から斜面を百メートルほど下ったところに建てられていた。 「お三方(さんかた)をご案内しました」  ドアをノックして小森がそう告げると、社長夫人、大隈さくらの声が返ってきた。 「どうぞお入りください」  小森は三人に入室をうながすと、自身は廊下に残ったまま一礼してその場を去った。 「ご招待ありがとうございます。柏木祐介です」と、柏木は近づいてくる六十代半ばの男性に言った。 「どうも、柏木先生、ご高名(こうめい)はかねがね(うけたまわ)っております。そちらがご友人の前園さんですね。よくお越しくださいました。大隈源太郎です。こちらは妻のさくら」 「よろしくお願いいたします。すみませんねえ、こんなところにお呼び立てして」とさくらが言った。彼女は源太郎とは二十歳違いで、元は愛人だったのだが、先妻の死後、五年前に正妻の座についていた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加