蛍火(ほたるび)

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 柏木の言葉に、源太郎は満足げにうなずいた。 「さすが、よくおわかりだ。水の流れをどうするのがベストか、澤村さんが知恵を絞ってくれたおかげです」  源太郎がテーブル上のワイヤレスチャイムを使って合図を送ると、アスパラガスを使った色鮮やかな前菜が運ばれてきた。 「ドビュッシーですね。『葉ずえを渡る鐘』か……、ここの眺めにぴったりだ」  柏木が館内放送で流されているピアノ曲に耳を傾けながら言った。 「曲名までご存じとは! 柏木先生はクラシック音楽にも通じておられるんですね」 「いえ、たまたまドビュッシーやラヴェルの曲が好きだっただけです。それはそれとして、印象派の曲は光や水のゆらめきを感じさせてくれるから、蛍観賞会にはぴったりですね」 「彼女の選曲なんですよ」  源太郎が翠のほうに目をやりながら言った。 「そうか、澤村さんはピアノが得意でしたね。新歓コンパの二次会で演奏してくれたことがあったな。あの時の曲も、ドビュッシーだったような気がする」 「ええ、『雪が踊っている』と『小さな羊飼い』です。暗譜(あんぷ)で弾ける曲はそのくらいしかなくて……」
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