蛍火(ほたるび)

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「澤村さんがピアノを? そりゃいい、ぜひ聴かせてもらわなくては。ちょうど三階のラウンジにピアノを置いたところだし……」 「恰好(かっこう)つけるのはおよしなさい。いつかだって、年末だから第九を聴くんだとか言い出してわざわざコンサートに行って、演奏が始まって十分もたたないうちに爆睡(ばくすい)したじゃないの。挙句(あげく)の果てにいびきまでかいて、あんな恥ずかしい思いは二度とご免だわ」  さくらにやり込められて、源太郎はきまり悪そうに口をつぐんだ。  ディナーは順調に進み、メインの肉料理が(きょう)された。 「ところで、柏木先生は警察に協力して、数々の難事件を解決なさったそうですね」と源太郎が言った。 「いえ、協力したのは二件だけで……」 「いや、それだって大変なことだ。昆虫の専門家が一体どうやって謎を解くのか、ぜひそこのところをお話し願えませんか?」 「そうですね……」  柏木は申し訳なさそうに自分を見つめている翠の視線に気づくと、おだやかな微笑を浮かべながら言葉を続けた。
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