蛍火(ほたるび)

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「最初のアゲハチョウの事件は雑誌やテレビでかなり紹介されたから、第二の事件のことをお話ししましょう……」  柏木は十分ほどかけて軽井沢の放火殺人事件の概要を語った。 「……というわけで、犯人二人は逮捕され、ティアラは無事に藤井博子さんの手に渡りました。来春の浦上さんとの結婚式で使われるはずです」 「なるほどねえ、テントウムシは一酸化炭素中毒にならないのか……。さすがは柏木先生だ」  源太郎に続いて、鳥羽雄二が憤慨(ふんがい)しながら言った。 「それにしても悪賢(わるがしこ)いやつらだ。柏木先生がいらっしゃらなかったら、まんまと完全犯罪が成立してしまうところだったじゃないですか」 「いえ、完全犯罪などというものは、そもそも不可能なんです。殺人という非日常的行為は、犯人の心身と周囲の環境に過大な負荷(ふか)をかける。何らかの()()()が必ず発生するんです。堂島警部補はこのひずみを長年の経験で直感的に(とら)えていた。それが彼の感じた違和感の正体です。今回の事件ではたまたまそのひずみが、昆虫の反応に表れていたので、僕の昆虫学者の知識が役立っただけのことです」
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