蛍火(ほたるび)

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 柏木の言葉に熱心に耳を傾けていた刈谷が言った。 「いや、そんな風に探偵の考え方を科学者の言葉で説明できる人なんて、どこを探しても見つかりませんよ。一流の学者であると同時に名探偵、とてつもない才能だ」 「その通り。刈谷君、いいこと言うねえ」  源太郎は上機嫌でそう言ってワインのグラスを空けると、不意に改まった口調で柏木に話しかけた。 「話は変わりますが、柏木先生はまだ結婚なさっていませんね?」 「ああ、はい……」  さくらはすぐに話の内容を察して、軽く咳払(せきばら)いしながら源太郎を(にら)みつけたが、夫のほうは一向(いっこう)に気づく気配がなかった。 「うちの澤村さんですがね、気立てはいいし、美人だし、実に魅力的な女性なんだが、研究熱心すぎて恋人を作る(ひま)がないらしい。失礼だが、先生が独身なのも事情は同じでは? それで、研究者同士なら話も合うだろうし、お二人で付き合ってみてはどうかと……」
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