蛍火(ほたるび)

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「ありがとうございます。こちらの社長のご好意なんです。飼育係の作業服姿では、他のお客様にも職員だとわかってしまうから、浴衣を着て、お二人の案内に専念するようにと言ってくださって。あの、よろしかったら、お二人も浴衣をお召しになりませんか? 観賞会に参加する方々には、着付けのサービス付きで浴衣を貸し出しているんです」 「せっかくだし、お言葉に甘えようか」と柏木は前園に言った。 「ええ」 「どうぞこちらに」  着替えを終えると、柏木達は台地の傾斜を利用した人工の渓流が流れる庭園に向かった。渓流に沿って木製の遊歩道が作られ、すでに十数名の見物人が、ほどよく間隔を取って並んでいる。 「澤村さんは柏木さんの講義を受けたことがあるんですか?」と前園が尋ねた。 「いいえ、先生が講座を持たれたのは私が院を出る年で、間に合わなかったんです」 「彼女が学部生(がくぶせい)の頃は、僕はまだ助手だったからね」
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