蛍火(ほたるび)

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「澤村さん、蛍って何のために光るんですか?」  それまで居心地悪そうに沈黙していた翠は、ほっとしたような表情を浮かべながら前園の問いに答えた。 「現在では雄と雌がパートナーを見つける役にも立っていますが、もともとは自分が毒を持っていることを夜行性の捕食者(ほしょくしゃ)に警告するためだったという説が有力です。卵から成虫まで、すべての段階で光りますから。最近、中部大学をはじめとする研究グループが、一億年前の蛍のルシフェラーゼのアミノ酸配列を祖先配列復元の手法で解析して、当時のルシフェラーゼの復元に成功したんです」 「すごいな、一億年前の生物の色彩の再現なんて聞いたことがない。タイムマシンを使ったみたいじゃないですか」 「ええ、この実験で、一億年前の蛍が深い緑色の光を放っていたことが判明しました。この光は当時の夜行性捕食者である原始哺乳類(ほにゅうるい)や小型恐竜によく見えることから、警告説がさらに有力視されるようになったんです」 「蛍は毒を持っているんですか?」
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