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さくらが夫を睨みつけながら言った。
「あなた、どういうつもり? 自分から食事の席で殺人事件の話をせがんだくせに、毒ぐらいで文句を言うなんて。それに、このお二人はご自分の研究の話をなさっているのよ。面白半分のあなたなんかとはわけが違うんですからね」
源太郎は放心したような表情で、言われるがままになっていた。気まずい沈黙の後で、彼は弱々しい声で言った。
「前園さん、澤村さん、申し訳ない。妻の言う通りだ。少し飲み過ぎたのかもしれないな……。ちょっと夜風にあたってこよう。さくら、後を頼む」
源太郎はそう言い残すと、少しふらつきながら部屋を出ていった。
「すみません。皆さん、どうかお気を悪くなさらずに」とさくらが言った。
「何でもありません。それに、ご自身で非を認めてきちんと謝罪された。立派なものです」と柏木が答えた。
「しかし、彼にしては珍しいね。そんなに飲んだようにも見えなかったがな」と鳥羽が言った。
デザートのシャーベットが運ばれ、会食が終わりに近づいても、源太郎は戻らなかった。
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