蛍火(ほたるび)

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 翌日の夜、堂島警部補の要望で、会食者と支配人の小森が胡蝶の間に集められた。通夜の後で、鑑識の作業服に着替えた前園とダークスーツ姿の堂島以外は、喪服を身に着けていた。時刻はすでに十一時をまわっている。 「あの……、警察の方がいらしたということは、主人の死に何か不審な点があるんでしょうか?」と、さくらが堂島に尋ねた。喪主(もしゅ)として通夜を終えたばかりで、その表情には深い憔悴(しょうすい)の色が現れていた。 「そうですね、柏木准教授とうちの鑑識の前園の証言、現場の状況から見て、さらに捜査が必要であることは確かです。ご主人の死因は、転倒による頭部の損傷ですが、その度合いが激しすぎるんです」 「激しすぎる?」 「ええ。ご主人は石段を下りていて、前方に倒れ込みながら頭部を強打している。このような場合、人間は反射的に、手をつくなり体を丸めるなりして、身を守ろうとするはずなんです。ところが、ご主人の遺体にはそうした行動の痕跡(こんせき)がまったくない。つまり、転倒時には完全に意識を失っていた可能性が高いんです。ご主人の健康状態は良好だったそうですね」
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