蛍火(ほたるび)

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「ええ、なにしろ気の弱い男で、それが、ワンマン社長に一日中振り回されるものだから、ストレスをため込んでしまったんでしょうね、先日心臓発作を起こしたんです。なんとか命は助かって、今は薬を持ち歩いています」 「彼はこちらに何年くらい?」 「五年前、他のホテルから転職してきたんです。小心者(しょうしんもの)ですが、そのぶん細かい気配りのできる男です」  刈谷が首を(かし)げながら、堂島に言った。 「薬物と言われましたが、食事の残りや食器などは、とっくに調べているはずですよね?」 「ええ、ディナーの料理に飲み物、食器、すべて調べましたが、体調不良を引き起こすような薬物は何も検出されませんでした」と、前園が堂島に代わって答えた。 「それなのに、なぜ?」 「検査は使用された可能性が高いと考えられる薬物に関して行なっただけで、こちらの想定していない薬物が使われた可能性は排除できないんです。万能の検出薬というものは存在しないので」 「なるほど、それにしても、前園さんて、警察の方だったんですね。その姿だとまるで別人のようだ」 「すみません、別に隠すつもりはなかったんですが、プライベートでしたし……」
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