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「でも、実験の準備の仕方とか、実験ノートの書き方とか、色々と教えていただきました。ご自分の研究で忙しいのに、私たちのことを何かと気遣ってくださるので、講座を担当される前から、柏木先生は学生達の間で大人気だったんです」
「学生のフォローも助手の仕事だから、当然のことをしていただけだけれど、そんな風に言ってもらえると、やっぱりうれしいものだね。でも、本音を言えば、講義でもゼミでもいいから、一度は澤村さんの授業を受け持ってみたかったな。『人の話をよく聞き、自分でよく考える生徒だ』と、主任教授の持田さんがいつも言っていたよ。研究者に対して、これ以上の誉め言葉はないんじゃないかな」
「そんな、私なんて……」
「それはそうと、澤村さん、君は僕の生徒だったわけではないし、もう一人前の研究者なんだ。僕を先生と呼ぶ理由はどこにもありませんよ」
「柏木さんは先生と呼ばれるのが苦手らしいんです」
会話の間に、西の空にわずかに残っていた赤味が薄れ、夕闇が深まっていった。
「そろそろ始まります」
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