蛍火(ほたるび)

31/40

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 柏木は考え込みながら窓の外に目をやった。窓の外では二度目の蛍の乱舞がピークを迎えていた。不意に、一匹の蛍が群れを離れると、窓辺に近づいてきた。蛍はガラスにぶつかりそうなところで向きを変え、横に波打つように飛んで姿を消した。  ―酵素が媒介(ばいかい)する酸化反応、ルシフェリンにルシフェラーゼ……。なるほど、そういうことか!  柏木はひそかにうなずくと、堂島に声をかけた。 「堂島さん、他に何か確認の必要なことがおありですか?」 「いえ、これで十分です。皆さん、夜分遅くまでご協力いただき、ありがとうございました。澤村さん、柏木さん、よろしければ車でお送りしますよ」 「ありがとうございます。でも、まだ電車で帰れますから……」 「酔客が増える時間帯だし、夜道も心配だ」と柏木が翠に言った。 「その通り。遠慮は無用です」  堂島と前園、柏木、翠の四人は、本館の入り口前でパトカーに乗り込んだ。 「柏木さん、先ほど何か気づかれたようですね」  エンジンをかけると、堂島はさっそく柏木に声をかけた。 「さすがは堂島さん、すべてお見通しだ」  柏木は微笑みながら前園にメモを差し出した。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加