蛍火(ほたるび)

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「いいえ、主人のためにやってくださったことですから、気になさらないでください」 「ありがとうございます。それで、話は変わるんですが、前園君が食材を調べるために何度も厨房に足を運んでいるうちに、シェフとすっかり仲良くなって、その方から料理を差し入れていただいたそうなんです。せっかくだし、お二人もご一緒にいかがですか?」 「そうですねえ……」  さくらも小森も気乗りしない様子だったが、柏木は(かま)わずチャイムのボタンを押して料理を運ばせた。 「お願いします」  給仕(きゅうじ)係は(ふた)のついた小さな白磁器(はくじき)のカップを各人の前に置いた。 「さあ、冷めないうちにどうぞ」 「これは美味い……」と、堂島が目を見張(みは)りながら言った。 「そうでしょう。中華料理のシェフが腕によりをかけた最高級のスープですから」 「あの、これって」 「ええ、ご主人のお気に入りだった、佛跳牆(ぶっちょうしょう)です」  柏木がそう答えると、突然、小森が青ざめた顔をして部屋を飛び出していった。
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