蛍火(ほたるび)

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「気の弱い男だからこそ、今回の犯行に及んだのかもしれません。源太郎氏のもとで支配人を務めるだけでも大変なのに、その妻であるあなたと関係を持ってしまった。源太郎氏にいつ真相を知られてしまうかと考えるのは、彼にとって恐ろしい重圧だったでしょう。いずれにしろ、犯行の動機については、取り調べで明らかにして参ります」  堂島は柏木のほうに向き直って礼を言った。 「柏木さん、ご協力感謝します。併用禁忌でしたっけ? あれを教えていただかなかったら、どうなっていたか……。会食者全員の食事に薬物が入っていたとは、思ってもみませんでした」 「蛍のおかげで気がついたんです。ルシフェリンとルシフェラーゼ、二つの物質がそろって初めて発光する。といっても、反応の種類はまったく別物ですが……」 柏木はそう答えると、前園に話しかけた。 「前園君、あの時、蛍が一匹だけやけに高く飛んで近づいてきたんだけど、あれもシンクロニシティなのかな」 「そうですね……、そのおかげで柏木さんがインスピレーションを得て、事件が解決したんだから、確かに『意味のある偶然』と言えるのかもしれませんね」
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