蛍火(ほたるび)

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 柏木は席を立って窓辺に歩み寄ると、蛍の乱舞を見下ろした。 「大隈さん、お疲れでしょう。見送りはここまでで十分です」  別館の正面玄関を出たところで堂島が言うと、さくらは無言で一礼して四人を送り出した。 「このまま帰るのはもったいないな。ちょっと寄り道して、蛍を見に行きませんか? 堂島さんは捜査ばかりで、蛍をほとんど見ていないでしょう?」と柏木が言った。 「いいですね。堂島警部補、事件は無事に解決したんだし、少しくらい休憩してもいいんじゃありませんか?」 「そうだな、蛍を間近で見る機会なんて、めったにあるものじゃないし……」 「よし、決まりですね」 「私は一件電話を。皆さんお先にどうぞ。そうだ、前園、ちょっといいか?」  前園が堂島に歩み寄る間に、柏木と翠は遊歩道に向かった。 「何でしょう」 「俺は口実を作って途中で抜けるからな。お前も上手くやれよ」 「どういうことですか?」 「にぶい奴だな。あの二人、似合(にあ)いのカップルだと思わないか?」 「それはそうですけど、じゃあなぜ一緒に行くと?」
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