蛍火(ほたるび)

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「うん、そんな話だった。各地に同じような言い伝えがあるんだね。それで、お盆の初日の八月十三日の昼頃に、母が居間から、お祖母ちゃんが帰ってきたと言って僕を呼ぶんだ。行ってみると、キュウリの馬やナスの牛を飾った精霊棚(しょうりょうだな)のまわりを、アオスジアゲハが飛びまわっていた。街中(まちなか)で普通に見られる蝶だけれど、家の中に舞い込んできたのは、後にも先にもその時しかない。確率を考えたらすごいことだよね。あの蝶は何と言うか、本当に神聖な存在のように思えたな……。(はね)の緑がかった鮮やかな青が、今でも目に浮かぶようだ」 「本当に、不思議なお話ですね……」 「あ、そうそう、確率の低い出来事がここぞというところで起きることを、ユング心理学ではシンクロニシティ、意味のある偶然、と呼ぶそうです」 「前園君、心理学に詳しかったっけ?」
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