蛍火(ほたるび)

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「いえ、門脇(かどわき)さんの受け売りです。ポリスというバンドの『シンクロニシティ』というアルバムを聴かせてもらっていた時に、シンクロンシティのことを説明してくれたんです。歴史上の偉人の受けた啓示の多くがシンクロシティだとか、易占いというのは、シンクロニシティを意図的に生み出すシステムだとか、話が止まらなくって参りましたよ」 「あはは、彼らしいね」 「あの、門脇さんというのは?」と翠が尋ねた。 「門脇佑馬(ゆうま)、前園君と同じで、東大のチェスサークルの仲間です。学部は文学部で、こだわりの強い者同士のせいか、前園君とは特に仲が良かったな。今は作家になっているんですが、前園君の言葉を借りると、コアなファンのいる怪奇小説家なのだそうです」 「ところで、蛍はどんな仕組みで光るんですか?」と前園が言った。 「光の素となるルシフェリンが、ルシフェラーゼによる二段階の反応で励起(れいき)状態のオキシルシフェリンになって、それが基底(きてい)状態に戻る際に発光するんです」 「酵素が触媒(しょくばい)する酸化反応なんですね。確かに、命を燃やしているという言い方がぴったりくる」 「ええ」
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